『初恋についての考察』 一息に吸いこまれそうな青空の下を平蔵は歩いていた。 胸の内に合わせて足取りは軽く、意味も浮ばぬほど上機嫌。 そう、どこまでも上機嫌。 往来の真中なのに笑いたくなるほど。 その足が向かうのは、私立聖蘭高校。 京子ちゃんや桜宮に何言われようが、あんまり構う気もしない。 だからこっそりまたリョーちゃんに会いに行こう。 止められれば止められるほど顔を見たくなるのが人間ってものだから。 『あー、くそっ、俺って意外とラブラブな奴だったんだ……』 平蔵がまた笑いの発作に襲われそうになった時、ふと道路を越えた反対側の歩道に目がいった。 見覚えある後姿。 瞬時にそれが誰なのか判断すると平蔵は駆け出した。 飛ぶ様に車道を越え、そのまま勢いを殺さずにその後姿目掛けてホントに飛ぶ。 その腕は交差していた。 「薫ちゃーんv」 何だか鈍い音が響く。 凄まじく機嫌の良い平蔵の声とは裏腹に、 朝から背中を強打された薫ちゃん…いやいや緋咲はちょっとむせていた。 まだケホケホ言ってる緋咲を見て平蔵は首を傾げる。 「どしたの薫ちゃん。テンション低いよ」 ようやく顔を上げた緋咲は何だかとっても冷たい目をしていた。 「あー、薫ちゃん低血圧だもんね…大丈夫?」 「……どこをどー見たら『大丈夫』なんて言えんだよッてめぇ喧嘩売ってんのか!?」 「うぅ…薫ちゃんが怒った…」 「当たり前だろーがボケッ三回死ね!!」 「ぁあ〜ゴメン薫ちゃん。それは無理!(あっさり) いくら薫ちゃんのお願いでもそれはムリー…だって今、俺は愛に生きてるから!」 「は?何だソレ超絶訳わかんねーわかりたくもねぇ」 「ふぅ、薫ちゃんは荒んでるね…俺、哀しいよ? でも安心してね☆ささくれ立ってる薫ちゃんの心にも俺の暖か〜い愛をお裾分けv」 「寒ッ!いらねぇ絶対いらねぇ死んでもいらねぇ」 「……しばらく会わなかったうちにそんな冷たい心の持ち主に!!(泣)」 「こないだ会っただろ」 「!あーもう何でそんなに荒んでるかなこの人は!昔の可愛かった薫ちゃんはどうしたのさ!!」 「そんな奴いねぇ昔も今も全然いねー」 「えー、純情度三割増しくらいだったのに」 「知るか!」 「可愛かったな〜ちっちゃい頃の薫ちゃん…」 「てめぇに会ったの中学からだろ(汗)」 「てへ☆」 「…帰る」 「あッ!!待っテ薫ちゃん!!行かないで久し振りに会ったのにッ」(ひしっと腰にしがみついてみた) 「うぜぇ」 「ひどッ……あぁ、でも薫ちゃんの腰抱くのも久し振り……」 「帰らせろッ」(殴ってからちょっと泣いてみたり) 「うぅ…ゴメンナサイ、モウシマセン。俺ガ悪カッタですー。ちょっと我を忘れてみただけですー」 「…忘れんなよ」(怖ッ) 「だって薫ちゃんの腰触るなんて 中学ん時に体育でジャーマンツープレックスかけようとした時以来…」 「んなもん覚えてんな!!」 「あぁ!帰らないで(泣)一緒にリョーちゃん見に行こうよぉ」 「は?」 「リョーちゃん☆俺の初恋v」 「……じゃあな」 「えぇ!?行こうヨ」(また嫌がらせのようにしがみついてみたり) 「いちいち触んなッ」 「あー大丈夫大丈夫。今の俺は本命のリョーちゃんいるから人畜無害だよ☆」 「……」(無言で首をふるふるしてみたり) 「リョーちゃんはね、病院で会ったんだけど すげーイイのv超強がりでクソ生意気な性格なんだけど… それが可愛いーの!つーか可愛がりたいの!ヒイヒイ言わせたくなんのv」 「……無害とチガウだろ」 「リョーちゃんのコト思うと俺じっとしてられなくなっちゃう。すげー顔が見たくなって、 会ったらどーしてやろうとか考えちゃうのv楽しいんだよね、あの今までに無かった反応が☆ あぁ…これが初恋…俺って意外に乙女だ…」 「どの面下げて乙女だッこのホモ!!」 「ホモ言うな!!薫ちゃんなんてノリだけでどーでもイイ奴とやっちゃうくせに! だから初恋が無いんだよ薫ちゃんには!ホーラ俺の方が純粋☆」 「んな怖ぇ初恋いるか!だいたいてめぇが純粋?なら人間全部マザー・テレサ級だろーがッ」 「ワー、素敵だね。だったら世界は平和だね」 「……もうヤダ……帰りたい……」 「そんなコト言わないでヨ。一緒にリョーちゃん見学ツアーに行こうよv」 「ヤロー見て何が楽しいんだよッ」 「面白いよー?リョーちゃん観察してると。 じゃあこれからリョーちゃんの面白さを再発見しに行きまショー♪ ワーイ☆決定!」 「すんなッ」 「だって一人で行くの寂しいし、初恋だから」 「知るか!!」 半分平蔵を引き摺るような面白い図のまま緋咲は哀愁滲ませ溜息をついた。 「……家帰りてぇ……」 そんな朝の会話。 結構二人とも大声出してるけど内容が内容なんで周りの通行人は 完全見ないふり。 かくして往来に出現した小さな異空間。 それをファミレスのガラス窓越しに眺めていた秀人クン、 ストロー銜えながら呟いた。 「…あいつあんな笑える奴だっけ?」 前の席に座っている拓は曖昧に笑うしかなかった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ホモじゃなくて、バイです、平蔵。 そして愛に生きています。 しかも初恋。()つきで純愛乙女。 もはやツッコミ不可です。緋咲さんすら泣かします。 ……怖ッ。 お帰りはこちら。 |