たいとる : 『電波とか届かない二人の話』
ながさ : ほどほど
どんなお話 :JUSTICE LEAGUE #39でついにGLが帰ってきたぜ! というわけで、蝙蝠とおハルさんの再会を考えてみた。
         『デートとか行かない二人の話』や他の話とは繋がりがなく、そういえばFOREVER EVIL後について当たり前のようにふれてます。
ちゅうい :(まだ)デキてない。 手も握ったことない。 キスもしない。 でも一緒のお布団には入る、堂々と。



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メトロポリス、紺碧の空と摩天楼に囲まれた公園の、青葉の輝く昼下がり。
パラソルの下のテーブルには、コーヒー、アイスティー、ストロベリーパフェ。
そして三人。

「だから、ジェシカはあの“リング”をコントロール出来るようになると思う」

というバリーの言葉に、

「それは良かった」
「本当に可能だと思うか」

ほぼ同時に全く逆の反応をする二人。
黒髪に眼鏡、瞳の色はブルー。
共通項はそれぐらいで、猫背気味の姿勢に一昔前の黒縁メガネが特徴的なクラークは、

「けれど、彼女は現実に二度も自分の力でリングを止めた。 君もその場に立ち会っただろ?」

語る物腰から誠実さと人柄の良さが自然と溢れる。
その隣、一昔前でない眼鏡のブルースは、レンズの形かフレームのせいか神経質そうな印象が際立ち、
目の下の隈と顔色の悪さが如何にも疲れた様子で、どこぞの大富豪本人だとはとても思えない、
というのは正に彼の意図なのだろう。

「問題は、あのリングを外すことが出来ないということだ」

タブレットから視線を上げないまま、異世界の地球からやってきた“リング”に対する懸念を、
冷ややかともとれる口調で次々挙げていくブルースが、その態度ほど冷徹に他者を切り捨てているわけでないと、
クラークもバリーも知っている。
(友人と議論する気がなかったら、そもそもこの場に姿を現わすこともない男だ。)

「……知り得ている情報が乏しい以上、細心の注意を払う必要がある」
「うん、だからね、」

と、口を開いたバリーは、僕もチョコパフェ頼もうかなあと続けるかのように、

「ハルに連絡しておいたよ。 リングのことならグリーンランタンに聞くのが一番だと思って」

クラークはちらりと傍らに視線をやり、何事もないように自分のパフェのクリームと苺を一口。
隣の席の親友は、無言。

「今関わってる件が片付いたらこっちに帰ってくるってさ!」

にこにこと顔をほころばせるバリーの正面で、
みるみるうちにブルースの眉間にくっきりと深い皺が刻まれ、
引き結ばれる唇に気付かないわけもないバリーは、タブレットを睨んだままの友人の顔を覗き込むように、

「ね?」

それでようやく、きつく結ばれた唇の間から低い声が漏れる。

「……分かった」

といって、分かった表情ではまるでない。
が、このヒヨコのように人畜無害な友人に難しい顔をしたとして、何の効果もないと知るブルースは、
喉奥から言葉を搾り出す。

「……“ガーディアンズ”なら過去に平行宇宙と接触したこともあるだろう……。 ジェシカは今どうしている」
「家族のとこ。 ずっと閉じ籠ってたのに色んなことがいっぺんに起きて、事情を伝える暇もなかったから」
「一人でか」
「ダイアナが一緒」
「それで良い。 誰かは彼女についているべきだ。 “森”の方は?」
「何度か行ってるけど、まだ進展はないねぇ。
 彼女が目撃した死体も彼女の“友達”も、埋め直されたか、別の場所に移されたみたいなんだ」





未発覚未解決の殺人事件について話し合いながら、しかし、その多層構造を持つ精神の何処か奥深く、
ブルースは激怒していた。
憤怒だ。
それを友人らが察していると気づいている分、彼の心情はますます険しくなる。
(ぎろりと隣のクラークを睨めば、にこりと笑顔を返される。)
(心拍血圧、脳内物質の分泌まで見透かされる、居心地の悪さ。)
多少の苛立ち如きで犯罪捜査における合理的思考の何を妨げられることもないが。
だが、しかし。


そもそも、必要ないと、言ったのだ。
グレイブの事件の後、ハルがジャスティスリーグを離れると言い出した時、その必要はないとブルースは言った。
たしかにリーグは大きな間違いを犯した。
個々の立場や考えばかりを優先させ、チームとして機能的な存在になることを怠った。
だからといって、その責任を一人に負わせることなど誰も求めていない。
なのに、ハルは去った。


しかし、ブルースは一面で、それは当然であると考えていた。
ハルがその秩序維持の役目を担うセクター2814だけでも、生命の存在する惑星は百や二百でなく、
高度な文明を持つに至り、自星内や他の星との間に軋轢を生じるようになったものも少なくない。
グリーンランタン本来の在り方を考えれば、その力を地球のためだけに行使させることは出来ない。
リーグの事情でハルを留めてはいけない。


そして、ハルは去った。
以来、銀河の彼方から何の音沙汰もなく、その後、地球では世界を揺るがす大事件が立て続けに起こり、
ジャスティスリーグを巡る状況も様変わりした。
ハルはもう戻らない。
そう、ブルースは思っていた。




己の憤怒の正体が何処にあるのか、それは彼にも分からない。
解かねばならない謎、見つけねばならない証拠は彼の“外”にあり、
指で裂いて探ることも出来ない彼の“内”の陰影や綾など、世界最高峰の探偵である彼の洞察対象にはならないのだ。
(不得手である、と自覚しているとしても。)




故に、ある日綺羅星の空に浮かぶウォッチタワーで突然ハルが目の前に現れた時、
ブルースは全く、無反応だった。

「せっかく帰ってきたのに『おかえり』は? おーかーえーりー。 うん?」

にっと笑うその顔は、以前と変わらず根拠もないような自信に満ち溢れ、
もしもジェシカやフラッシュの姿が向こうにちらりとでも見えなければ、ブルースは反射的に、
殴り飛ばしていたかもしれない。
だが、結果的に彼の表情は、乏しかった。
ARGUSでスティーブ・トレバーとアマゾウィルスについて話した後で、フラッシュから
ちょっと上に来てくれと通信が入り、その言葉に従っただけだ。
グリーンランタンと顔を合わせる予定など、なかった。
カウルで顔を隠したままの、表情のないレンズの内側、
彼はただ一度、まばたき。
羽のように睫毛がふるえ、

「なにその無反応。 びっくりして声も出ない? ああ、それとも俺が帰ってきて、そんなに嬉しい?」

ずずいっと距離を縮めてくるハルに、ブルースは一歩、二歩と後退り、
その背中が壁に当たる。

「お利口さんの頭が思考停止するぐらい、俺に会いたかったんだ?」

からかうような口調で、ハルはどこまで近づく気なのか顔を寄せ、
吐息が重なりあうのを唇で感じた瞬間、ブルースは眉一つ動かさないまま、激怒した。
ハルの言葉が全くの的外れ、というわけでない。
何から何までいつまで経っても巫山戯ている男が、四肢を欠くことなく戻ってきたのだ。
宇宙の片隅で野垂れ死にしているかもしれないと考えていたのだから、喜ばしく思わなくもない。
が。
そんな“理性”など斬り捨てる、刃を噛み鳴らす火花。
(あるいは、それは激怒などでなく。)
口づけする人のようにハルの首に腕を回せば、なにか当然のように腰を抱かれ、
にこりとするその男を、ブルースは軽やかに、投げた。
黒い旋風が巻き起こり、何が起きたのか分からぬまま背中から床に叩き付けられたハルを見下ろし、

「今夜、私の部屋に来い」

言い捨てると、夜闇のようなケープを翻しテレポーターに消えた。
残されたのは、ぽかんとしたハル。


「あれ、ブルースもう帰っちゃったんだ」

ひょいと顔を覗かせたバリーは、親友が大の字になっていることについては言及しない。
ハルはぼんやりしたまま身体を起こし、夢の続きのように、

「俺……、やっと女にしてもらえるのかも」
「ハル、頭打った?」
「打った」







蝙蝠を見たらちょっかいを出せ。
それがハルの信条だ。
だから、揚げ足を取る、言葉尻をとらえて話を逸らす、言われたことと逆の行動をする、そもそも話を聞かない……。
無論、本当に重要なことはちゃんと耳に入れている。
が、何故だか、どうしても、何か言わずにいられない。
いつだってつんと澄ました顔を見ると、何でもいいから何かしてやりたくなる。
その“何か”の範囲は、思ったよりも広かったようで、

『私の部屋に』

部屋。
今夜。

ブルース相手に勃つのかと自問してみれば、
速攻で押し倒す、と打てば響くような答え。





ハルがゴッサムに現れたのは、夜明けの一時間ほど前だった。
霧の底の街は暗く、深い淵を覗き込むように北へ飛行すれば、丘陵地帯の中腹にウェイン家の屋敷はある。
建造から “まだ” 200年も経ってないという城に住んでいるのは、ゴッサムの事実上の王様で、
そのくせ、酒や享楽より謎解きと猟奇殺人が好きという変わり者。
趣味はとびっきりのクズを逆さ吊りにすることだから、陰険だ。
が、その偏屈な友人の寝室の外。
バルコニーに浮かんだまま、ハルは動かない。
寝室がどこにあるかは偶々知っていた。
不用意に侵入しようとすればサイレントアラームが作動することも知っている。
中にいる誰かが招き入れてくれれば何の問題もないのだが、どうもその誰かが中にいるように感じられない。
まだ帰ってきてないのかもしれない。
一旦目を付けた獲物は地の果てまで追いかけて仕留める性格だから、それは充分有り得る話だが、
上空を飛ぶゴッサムの街は、静かだった。
これは、あれか。
ハルもまあ他人にしたことはあるが、されたことはあまりないのだけれど。


屋敷を離れ、海の方へ。
切り立った崖下、潮が引いて現れた海蝕洞の奥に隠された、常闇の世界。
進むべき方向を知らなければ二度と地上に帰ることも出来ないような地下迷宮を行く。
少々面倒だが、テレポーターを使わずに外からケイブに入るにはこれが一番穏便な経路なのだ。
複雑に入り組んだ洞窟を上に下にどれほど進んだのか、やがて向こうに蒼褪めた明かりが見え、空間が突然開ける。
ウェイン邸の真下。
王様の城の、秘密の地下は、体長6.2フィートの大蝙蝠のねぐらになっている。

「……ぅおーい……」

コンピュータの大きなスクリーンがある方に歩いていくと、椅子に座る人影。
声をかけてもこちらを振り向かない。
椅子の前に回ってみれば、夜闇そのものを纏ったようなダークナイトは、

「……やっぱりなー」

カウルのないブルースは、眠っていた。
スクリーンは何かの資料を映したまま静止。
コンソールの傍には、手をつけた様子のないサンドイッチとすっかり冷めたエスプレッソ。
つまり、こういうことだ。
今晩の“狩り”を終えて帰ってきたブルースは、さっさと屋敷へ上がってしまえばいいものを、
何か思いついたか気になることがあって、そのままコンピュータの前に腰を落ち着け、
せっかくアルフレッドが用意してくれた夜食に気付いていたのかどうか。
勿論、ハルのことなど頭になかっただろう。
挙句、このザマ。
ハルが代わりにサンドイッチを平らげてしまっても、まだ目を覚ます気配がない。

「……まあ、大方そんなことだろーと……」

その身体を椅子から抱き上げようとして、少し考え、起こさないようにリングを使う。
たしかケイブのどこかにも寝る場所があったはずだ。
あっちを覗き、こっちを開きするうちに、ベッドのある部屋を見つけた。

「ったく、世話の焼ける……」

とりあえずベッドに寝かせると、ようやく片目が明いて、

「……お前に世話を焼かれる筋合いなど無い」
「はいはい、あー、可愛くない、おまえ全然可愛くない。 おいコラ、そのまま眠るな! せめて脱げ!」

不機嫌そうに喉奥で唸ってシーツに潜ろうとするのを、ハルはどうにかケープを外させ、
ベルトに手をかけたところで、ブルースが小さな声で何か物騒なことを呟き、自分で外した。
あらゆる事態に備えておかねば気の済まない性質で、ベルトにだってどんな仕掛けがあるか分からない。
ハルは、ブルースが目を瞑ったままボディスーツを脱ぐのを手伝いながら、
どこをどうすると着脱が可能になるのか、工学的な興味から観察した。
無論、次の機会に役立てるつもりもあるが。
(次があるなら、と仮定して。)
明かりは、ベッドの傍の小さな一つ。
橙色の朧な灯と、塗り込めたような四囲の闇。
茫と浮かぶ、極限まで鍛錬された身体には、刻み込まれた古傷と彩るような打撲の痕が踊り、
けれど、今夜は深刻な怪我をしていないのをちらりと見て、ハルはグリーンランタンの姿を解くと、
着ている物を脱いで、友人がさっさと引っ被ったシーツを掴んで中に潜り込んだ。
そして、目を瞑る。
目を明ける。
そこに、見たこともないような藍色の瞳。
怒るでも微笑むでもない、透きとおった沈黙に、睫毛の長い影が揺れ。
ブルースの手が、はじめて、ハルにふれた。
堅いグローブに覆われていない、ハルの温度よりも少し冷たい指先が、
何かを確かめるように、頬を、目許を、こめかみを。
なぞり、撫でていく。
ハルは目を細め、その唇に口づけしようとして、阻止された。

「……子供のいる家でセックスはしない」
「ちょっとだけ」
「絶対にしない」
「じゃあ、明日とりあえずメシ食って、映画でも見たら、しよう」
「明日は朝から会議だ。 映画に興味はない」
「セックスは?」
「する」
「なら良し」

ハルは、友人がするりと逃げださないように抱え、目を閉じる。
ブルースは暫く落ち着かなげにもぞもぞし、やがて、静かな溜め息。
聞こえないくらいちっちゃな声で、囁いた。
その言葉。
笑み崩れていくハルは、先程の妥協を少し、後悔する。


「ただいま、ブルース」











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しかし、翌日もなんやかんやと事件が起こり、セックスするまで結局二ヶ月はかかる、に3000ディック。
いや、それ以上だ、に4000ディック。

激怒って何回書いたんだろう。
蝙蝠はなんだかんだでおハルさんのこと大好きだよ。 本人いないとこでならデレるよ。
でも本人に対してはもれなくムカツクと良い。

完全に眠ってるフル装備ぼっさまをおハルさんは抱き起せますか? と考えて、うん、たぶん出来る出来る頑張れば。
だって、蝙蝠をお姫様だっこ出来ないような人はJLに入れませんてバリーさんもウォーリーも言ってた。

今6月です。
邦訳は『ジャスティスリーグ:トリニティ・ウォー』が発売、そして続きは7月発売『フォーエバー・イービル』
その続きの『JUSTICE LEAGUE: INJUSTICE LEAGUE』(原書)も7月発売ですよ。 JL#39はこちらに収録予定。
邦訳トリニティ・ウォーは、本人いないとこでデレてる蝙蝠をお楽しみに。
フォーエバー・イービルにはハル・ジョーダンもおりますし、是非。




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