たいとる : 『金のエンゼル』
ながさ :ほどほど×6
どんなお話 :バリー×ブルースで、何でかうっかり発情した。 他、それに至る前の幾つかの出来事。 ハルはいるけれど他のお話との連続性はない。 バリーさんは結婚してない。
ちゅうい :腐向け。 良い子の18歳未満は見ちゃダメだ!



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【金のエンゼル】
(蝙蝠視点だよ。)


たとえば、宇宙を加速膨張させるエネルギーの正体は何であるか。
その問いの正解に辿り着いた人間はまだいないが、けれど歴然たる事実としてその現象は存在する。
宇宙全体で起こり得る全ての事象のうち、今の“科学”で説明可能な範囲は圧倒的に少ない。
そして、人間が“科学”を持とうが捨てようが、宇宙はそこに存在する。

つまり、どんなに摩訶不思議なことだって、起きてしまうから、起きるのだ。




今日のお茶うけはチョコボール。
偶然にも二人そろって金のエンゼルだった。
さてその確率はと議論する最中、どこかでザターナがくしゃみして。
瞬く間に辺りを埋め尽くすウサギ、ウサギ、ウサギの洪水。
脱兎も押すな押すなの大混雑は、足の踏み場もない毛玉たち。
呪いを解くには、広いウォッチタワーのどこかに隠された、たった一つのイースターエッグを見つけねばならぬ。

そこまででも充分奇天烈なのだが。

メンテナンス室の、予備のパーツなど収納している棚の陰。
その薄暗がりで、息の整わない二人。
互いの身体に寄りかかるように、互いの肩に顔を埋めて。
ぬめる指を絡みあわせるのが、吐精したばかりの互いの性器であるのは、
いったい何の弾みだったのか。

刹那の忘我から正気の地平へ、
今や彼は自分の至らなさに歯噛みせずにいられない。
(雲上の世界から突き落とされることに慣れているとはいえ。)
にもかかわらず、重ね合わせた身体の、わずかな身動ぎにすら、目の裏に星が散るようで、
場所柄も状況もわきまえない己自身が浅ましく、切なく。
けれど、口を開いたのは彼でなかった。

「ごめん」

その声の、乱れた余韻。
地球を閃光のように駆け抜けて息一つ乱さない男の、震える吐息を感じながら、
うずきの止まないそこをすり寄せあって離れられない彼は、答える声も言葉もなく。
ただ、こんな羽目になったのが、申し訳なく。

「ごめん」

と、奥に進みはじめる指に、彼は恍惚と目を伏せた。






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これ書いて終わりにする気でいたら、意外と続いた↓













【あーん未遂。】



「……以上だ。 理解したな」
「だから俺は最初からこうなるって言痛痛痛痛割れる割れる中身出るッ」

地球から光の速さで四十七億三千万年の満身創痍。
南米カラル遺跡で観測された重力異常と研究チームの連続失踪を調査していたはずが、
いつのまにやら星間抗争に巻き込まれ、太陽系から悠久の果て、孤軍奮闘の孤立無援。
けれど、肋骨の数箇所が折れているはずのバットマンは、平生と同じく冷静沈着で、
そのバットマンの黒鋼のような手で顔面を鷲掴みに締め上げられているグリーンランタンは、
リングのチャージが切れそうだというのに元気に喚いている。
その様子を眺め、バリーはふにゃっと相好を崩した。
ちっとも頭が回らなかった。
スーパースピードで動くにも物を考えたりするにも相応のエネルギーを消費して、
最後にカロリー補給してから何時間経ったのか。
ブドウ糖、どこかに落ちてないかな。

「フラッシュ」
「……うん?」

首を傾げると、バットマンがこちらを見ている。
鼻の辺りまで隠す漆黒のカウルのおかげで表情という表情もないけれど。

「ごめん、ぼんやりしてた。 何の話だっけ?」
「コイツの話が長ぇからだろ」
「ガス欠だよ、今日持ってた分はグルコースキャンディーもチョコバーも全部食べちゃったんだ」

すると、ブルースは表情を変えないままハルを離して、

「手を出せ」

言われるまま広げた掌の上に、ブルースがきらきらと落とす小さな可愛らしい包み。
ユーティリティベルトのあちらやそちらのポケットから、出てくる出てくるパステルカラー。

「水色はヌガー、オレンジはチョコレート、緑のは」
「キャラメル!」

その一単語を発音する間にもバリーは次々包みの中身を口に放り込んでいる。
空腹で動く気力もなかった身体と脳に、とろけるようにしみわたる、甘い甘いお菓子。
アーモンドもアプリコットも美味しく消化吸収され、全身の細胞が拍手喝采スタンディングオベーション。

「つか、おまえ何でそんなの持ってんの? おやつなの?」
「ハロウィンにアルフレッドが作ったものだ。 以来、注意してもいつの間にかベルトに入っている」
「いいなぁ、俺も欲しーなー、薬切れ禁断症状で静脈にブチこまれたみたいな顔がしたいなー」
「お前には特別にこれを食わせてやろう、噛み締めろ」

ブルースの長い指がひらりと翻ったと思えば、手品のように現れる黒いバットラング(爆破型)。
にまっと笑ってハルは鼻を鳴らし、

「その程度の火力でGLのシールド破れると思ってんのか?コラ」

自信満々に言い放って、この二人のやりとりは全く、どこにいようと変わらない。
堪らずバリーの口許が綻んでいく。
甘味と糖質の摂取による快感作用と、正反対のくせに妙に似てもいる友人達。
お前達は楽観的過ぎるとバットマンはいつも言うけれど、そのブルースが、
これから頭上で百万対百万の軍勢が衝突するという時、アルフレッドの手作りお菓子をくれたんだ。
何もかもきっと上手くいくに決まってるじゃないか。

「ハル」

二つ残しておいたうちの、明るいライムグリーンの包みをハルに、
やわらかな空色はブルースに。

「ありがとう」

バットマンは答えず不動の姿勢のまま、差し出されたその手と、バリーの目を見返す。

「もう平気。 生き返った」

包み紙を解いて六面体の砂糖菓子を指で摘まみ、むつかしい顔の前に持っていくと、
ようやくブルースはそれを手に受け取った。 そして、そっと口に含むまでをバリーは見守って、にっこり。

「じゃあ、世界を救いに行こうか」







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正直、GLのシールドなんて紙のように破れる印象。
そして、どこがどうカップリングになろうが、蝙蝠とおハルさんはグーパンで殴りあってほしい。 パララックス除く。
つかこの三人普通に好きなんですけど。













【金のエンゼル それからどうした。】



それから、どれほど経ったのか。
五分と経過してないはずが、彼の時間感覚は正確に機能することを放棄している。
きつく目を瞑って、声が洩れないよう自分の指を噛み締め、彼は永劫を堪え忍ぶ。
ボディスーツの中、身体が酷く熱かった。
臓腑の裏側から炙られているようで、カウルを脱いでも何の気休めにならない。
優しい手指は、ゆっくりと彼の後孔に侵入して内壁を撫で上げては引き抜かれ、
何度も何度も繰り返されるその丁寧な抽迭に、彼の腰は勝手に跳ね、情けなくひくつく。
声でない声を殺して喉が引き攣れる。

「……つらい?」

ブルースは喘ぐように酸素を求め、その言葉には答えない。
気遣わしげな眼差しを避けて腕で顔を隠し、痛みを覚えるほど自分の髪を掴む。
彼が、切につらいと思うのは。
その真摯な眼差しや声にすら、節操のない彼の肉体は、まるで裸の皮膚に直接語りかけられたように反応し、
鋭敏になった神経が焼き切れそうで、閉じているはずの目が眩む。

「ブルース」

熱の籠った吐息が耳をくすぐって彼は身をふるわせた。
その声の少し掠れた音色が、確かに欲情しているという事実だけで、彼の心臓を破裂させるに充分であるのに、
言葉も返せないほど追い詰められた身体を猶更煽られ、知らぬ間に腕は解かれた。
唇を奪われれば、恥じ入っていたことも忘れて舌を絡め合う。
心の底、鎖で雁字搦めにしたはずの貪婪が、まだ足りないと次をねだる。
待ち焦がれていたものに身体を貫かれた時、彼は歓喜の声を洩らした。






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脱がないのもいいよね。
普段がっつかない人の普段と違う顔というのが僕ぁ好物なんですが、それにしたってこのカプは蝙蝠に発情してほすぃ。













【セカンドオピニオン】
(あーん未遂。翌日)



『今うちにいる?』

というフラッシュからの短いメッセージを彼が受け取ったのは、
ジャスティスリーグの通信機ではなく、ブルース・ウェイン個人のセルフォンだった。
昼下がりのウェイン邸、当主の書斎。
“出社しないなら目ぐらい通しておけ”と会社から送られてくる資料や報告を読んでいた彼は、
そのメッセージに小首を傾げる。

ジャスティスリーグのメンバーの大半はスーパーヒューマンだ。
彼の心臓の鼓動を地上のどこにいようと聞き分けるクリプトニアン、
優秀なテレパスであるマーシャン・マンハンター、
そして、ゴッサム全市民の顔認証に1秒もかからないスピードスター……。

彼は至極簡潔に返信し、また資料に目を戻す。
暫くするとドアをノックする音。

「失礼致します、アレン様をお連れしました」
「様は余計だよ」

アルフレッドから"Mr."を奪える人間などそういない。
と内心で答えながらブルースが顔を上げると、にこやかに立っていたのは、真紅のスピードスターでなく、
ラボの白衣姿でもない、バリー・アレン。

「やあ、肋骨の調子はどう」
「すこぶる順調だ」

その言葉はバリーにというより、素知らぬ顔で茶の支度をする執事に向けたものだ。
主が宇宙の彼方から四肢を欠くことなく帰還したことに安堵しつつ、その負傷には慇懃な小言を忘れない。
ブルースが今日在宅であるのも、アルフレッドがいち早くルーシャス・フォックスに念を押したおかげで、
“昼夜を問わず”主の外出を許す気がまるでない。
普段は鎮痛剤の類を使わない彼が、言われるまま食事毎に薬を服用しているのも、従わなければ、
背を向けた途端麻酔銃で撃たれ兼ねない殺気を、元英国諜報機関エージェントである執事から感じ取っているからだ。
無論、アルフレッドの抑制のきいた所作は常と変らず、主との水面下の緊張を客人が察することはないが。

「バリー」

物珍しそうにきょろきょろと首を巡らせている友人に、ブルースはアルフレッドが整えたテーブルの方を手で促す。
紅茶にスコーン、ジャムとクロテッドクリーム、ケーキにサンドイッチ、じきに焼きたてのクッキーも来るだろう。
一般的なアフタヌーンティーよりも遥かに量が多いが、

「ありがとう! 今日は殆ど走ってないから大丈夫なのに……」

たしかに、セントラルシティからゴッサムシティまでの距離など走ったことにもならないだろう。
その能力のため大量のエネルギーを消費するスピードスターは、席に着くと実に嬉しそうに次から次へ頬張っていく。
しかし、大丈夫という言葉も本当のようで、ブルースの目でも視認可能な速度だ。

「食べること自体前より好きになったみたいで」

困ったようにそんなことを言うバリーは普段、高濃度のブドウ糖顆粒を携帯している。
それは迅速なカロリー補給という目的の他、たとえばウォッチタワーの食料を一人で食べ尽くさぬように
という配慮もあるかもしれない。
(ハルはあのキッチンにある物の少なくとも半分は自分のものであると信じている。)

「あんまり食べてると周りがびっくりするんだよね」

そのせいで恋人から別れを告げられたという話を思い出し、ブルースは執務机から友人の姿を眺める。
幸せそうに餌を頬張るゴールデンハムスター。
いや、ジャンガリアン。

「今日は非番か」
「昨日の今日だし休ませてもらった。 たまにはゆっくりしたいよ」

その言葉に、ブルースは会社の資料を読んでいたタブレットの角を、指でなぞる。
外宇宙から地球に帰還した翌日の休暇に、彼の元を訪れる理由が推察出来ない。
自分は何かを見過ごしているのだろうか。

「痛む?」

突然そう言われ、ブルースは首を傾げた。
いつのまにかバリーは目の前に立っている。

「肋骨」

バリーが書斎に現れてから、ブルースはまだ一度も執務机から離れていない。
椅子から立ち上がるのを億劫に思ったことを彼は少し後悔する。

「ただの多発骨折だ。 外科治療の必要もなく今は圧迫固定している。
 医師の指示に従って安静にしているので、それほど痛まない」
「君にはアルフレッドがいるからね」
「優秀な軍医だったことは認めるが、治療に関して患者の意見を聞き入れるところがまるでない」

そこで何故かバリーは噴き出したが、ブルースは寧ろドアの方に一瞥をくれた。
アルフレッドが突然ドアを開けて入ってくる気配はない。

「今日は何の用件だ。 私が主治医の外出禁止令を大人しく守っているか確認しに来たわけでないだろう」
「え? そのとおりなんだけど」

思わず眉を顰めるブルースに、バリーは両目をぱちぱちさせ、

「お見舞いに来たって最初に言わなかったっけ。 あ、やっぱり手ぶらはダメだった?」
「いや」
「だって何を持って行けば良いのか分かんなかったんだよ」
「何も要らない」
「ホラ君すぐそういうこと言うだろ?」
「……バリー」
「品の良い溜め息なんかついてないで、僕の話聞いて?」

ブルースは無言でその顔を見上げた。

「僕の身体、大抵の怪我ならすぐに治るのは知ってるよね」
「君は自分の身体に備わっている治癒能力のスピードをコントロールしている」
「そう。 でね? 自分のほどじゃないけど他人の身体も治すことが出来るんだ」

表情を動かさないブルースは、その事実を全く知らなかったというわけでなく。
けれど、彼の沈黙を不信とでも捉えたのか科学的な論証を始めたバリーの、
フラッシュである際とまるで変わらない声や話し方、身振りなどを観察し、
そして、フラッシュではないバリー・アレンの、ふわふわして見える前髪の様子に、
アヒルの雛、と結論付けた。

「試してみる?」

ジャンガリアンハムスターにしてアヒルの幼体である友人は、選択肢の一つとして、という口調。
その誠意に、ブルースは珍奇な動物と出会ったような思いで黙考する。
折角の休日なのだから、もっと有意義なことに使ってはどうか。
という、舌の先まで出かかった言葉を彼は飲み込む。
友人の素朴な好意に対し、それは如何にも礼を欠く。
彼はちらりと窓の向こうに視線をくれた。
穏やかな空の下、木々の緑の上に靄のかかるゴッサムの摩天楼が見える。
肋骨の多発骨折は初めてのことでない。
今までの例を考えれば症状の軽い部類と言える。
しかし治癒するまでの間、自分が負傷したことでバットマンが失敗を犯す確率が高まり、
救うことが出来たはずの誰かを危険に晒すことになるのは、耐えられない。

「頼む」

にこりともしないブルースに、バリーは笑顔で頷いた。

「どうすればいい」
「ブルースはそのまま楽にしてくれればいいよ」

と、執務机の後ろに回ってブルースに歩み寄り、椅子に座っている彼の左胸の下に右手をそっと当てた。
そして、その姿勢のまま何もしていないように見えるが、

「……気分が悪くなったら言って。 自分の身体を治すのと勝手が違うんだ」

しかし、ブルースは僅かに目を眇めただけで、答えなかった。
バリーの手を介して彼の身体に伝わる“何か”は、彼の感覚が通常経験するものとは全く異なり、
故に、温かくも冷たくもなく、痛みでもないその神経のざわめきを、彼は言葉にしない。

「どのくらいかかる」
「うーん、僕の骨折だったら一日寝ればすっかり治ってるけど、君のはもう少し時間がかかりそう」

その言葉が普段よりも近くから届き、ブルースは視線を上げた。
彼の椅子の肘掛に片手をつき、必然的に上体を彼の側に傾けた、今日は素顔のスピードスターは、
自分の手元に視線を落とし、意識を集中している。
或いは彼の内がざわめくのは、己が真に理解することのない“力”に自身を委ねる不安かもしれない。
そんなことをブルースが考えていると、

「……言っていい?」
「何だ」
「ライオンの虫歯治療してる気分」
「噛み付く時は警告する。 安心しろ」

くっとバリーは笑いを噛み殺し、

「まあ、貴重な体験だよ」

ブルースは、目の前にいる実に表情豊かな生き物を、不思議な思いで眺める。

「……ハルは今日はどうした」
「コーストシティじゃないかな。 何か用事があった?」
「いや、君達は大抵いつも二人で何のかんのとやっているだろう」
「まあそうかもね、こないだまで僕の家にいたし。 仕事じゃなかったらたぶん来るよ、呼ぼうか」
「煩いから良い」
「君達はすぐに張り合うからねえ」
「私は張り合ってなどいない」

あれとは方法論の食い違いがあるだけだ、と言い返そうとしてブルースは黙り込んだ。
周囲のそういった評価は甚だ不本意だが、日々これ太平楽のバリー・アレンを相手にその誤りを正したところで
何があるのでもない。
ブルースはまた溜め息をついた。
彼の間近にいるバリーが気付かないはずはないだろうが。
と、そこで彼は改めて、彼我の距離について観察した。
彼の顔から1フィートも離れていないところにバリーの顔があり、歯科医の治療よりも近いだろうか。
心持ち視線を伏せるその瞳は、光の加減によってパールグレイからペイルブルー。
眉も睫毛も淡色の金、酷薄な印象を与えないのは顔のつくりが全体柔和であることと、その表情だろう。
しかし、口紅をつけていないブロンドで、キスをするでもない相手と、私室で二人きり、至近距離で接触している。
たしかにあまり日常的な経験ではない。
(とはいえ、口紅をつけたブロンドの頻度がどれほどか、関心がないので彼は分からない。)
(閨の記憶は闇の中、顔と身体が一致しない。)
などと考えながら、彼はもう一つ、馴染みのない事態に気が付いている。
バリー・アレンが、静止している。
ウォーリーと比べればバリーは大分おっとりしているが、ウォッチタワーにいる時や
ジャスティスリーグとして行動する時、フラッシュが黙って5秒間じっとしている姿など見た記憶がない。
常に動いているか、常に何かをしている。
立ち止って会話する時も身体のどこかは動いている。
落ち着きがないというわけでない。 だが、静止はしない。

「……バリー」
「うん?」

と、のんびり返事はするが、姿勢を変えることはない。
ブルースの左胸に重ねられた右手に力など入ってなく、屈めた上体を左腕で支えている。

「……ずっとその体勢でいるのか」
「疲れた?」

ブルースは口を開こうとした。
動かなくていいのかと聞こうとしたのは彼の方だ。
しかし、フラッシュ以外の人間に問えば些か間抜けなその台詞を口にする前に、彼は一瞬にして運び去られていた。
空気の揺らぎに軽く瞬きする。
気付けば、彼がいるのは自分の寝室の、自分のベッド。
枕に頭を落とし、仰向けに天井を眺めている。
傍らを見れば、日向の匂いのする蜂蜜色の動物が寝そべっており、

「これなら僕も楽ちん」

朗らかな陽気の中で昼寝でもしそうな顔。
ブルースは、明順応の途中であるように目を細め、

「……私を運ぶ時は、一言欲しい。 驚く」
「え、ブルースが驚くの?」
「驚いている。 こんな軽やかにベッドに押し倒されたのは初めてだ」

率直に感嘆すると、はにかみながら「なんだか褒められてるみたいだねえ」と答えるバリーに、ブルースは続けた。

「何故それでデートの相手をハルに取られるのか、全く理解に苦しむ」
「……なんで知ってるの……」

先程のスコーンに毒でも盛られていたのか苦しげに呻き、バリーは枕に突っ伏して動かなくなる。
しかし、3秒も経つとすっかり忘れたように、

「……このベッド、ふかふかでいいにおい……」

ブルースは、自分の唇に微笑が浮かぶのを感じた。

「楽にしてくれ」








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フラッシュの自然治癒能力云々のとこは、モリソンさんのJLAで蝙蝠が言ってた気が。
プロメテウスにカイル君が撃たれた時かな。











【微妙な話。】



上機嫌のバリーがセントラルシティの自宅に帰ったのは、夜の9時を過ぎた頃だった。
ドアを開けようとして鍵が掛かってなく、中に入ってリビングを覗くと、

「遅ェよ」

ハルがカウチで寛ぎ、オークランド・レイダーズ戦を見ている。
テーブルには1/3ほど残ったピザとビールの空瓶が一本。 二本目はハルが手に持っている。

「来てるなら電話すれば良かったのに」
「しましたー」

ぽいっと投げて寄越すのはバリーのセルフォン。

「キッチンにあった」
「あ。」

ブルースとメールした後、職場でやり残したことを一つ思い出し、ラボに寄ってからゴッサムに向かった。
その時セルフォンを持っていた記憶がない。

「忘れたの全然気付かなかった。 いつ来た?」
「8時前。 メシ食おーと思ってさ、ホイ、こないだの100ドル。 と、The X-files」
「これハルのとこにあったんだ」
「ん」

ハルが良く泊まっていくので、バリーの家のバスルームにはハルの歯ブラシがあるし、引き出しには着替えもある。
自分のとまとめて洗濯をするのでだんだんどれがどちらのなのか分からなくなり、二人とも特に気にしない。
モルダーとスカリーは、今までも何度か二人の家を行き来している。

「で、どこ行ってたんだ」

最後のピザをハルは一切れ、残りの一切れはバリーがぺろりと平らげた。

「ブルースの家」
「……あ?」

バリーはキッチンでコーヒーを淹れながら今日のことを掻い摘んで話す。
ブルースの部屋のベッドはびっくりするぐらい快適で、“仕事”でない時のブルースの表情は柔らかい。
クロスワードパズルを一冊解き終わり、美味しい夕飯を御馳走になった。

「はい、お土産。 ブラウニーだってさ」
「……へー」
「後でお皿返しにいかなきゃ」

アルフレッドから持たされた包みを開ければ、チョコレート菓子の甘い甘い香り。
にこーっと幸せそうに笑って口の中にぽいぽいと高速で放り込む友人に、ハルはとりあえず自分の分を確保すると、
片眉を上げたままビールを一口。

「へー」
「明日仕事が終わったらまた行ってみるよ。 思ったより早く完治すると思う」
「そりゃ良かった」
「うん」
「……で?」
「で、って何?」
「あいつエッロい身体してるよな」

その時、バリー・アレンが静止した。
と思った次の瞬間、分裂する。
部屋のあちらこちら落ち着かず右へ左へうろうろと、超高速で移動する物体を限界ある人間の視覚で捉えた無数の残像。
それらがどこかに消え失せると、部屋の中はまるで小型ハリケーンが発生したような惨状で。
物は倒れ引き出しの中身は飛び出ている。
ぐるりと見回したハルは、ビールを一口。
そのうちに、玄関から超々高速物体が舞い戻ってきたかと思えば、散らかっていた部屋は、
時間が巻き戻るように全てのものがあるべき位置に戻っていく。
バリー・アレンの静止からここまで7.03秒。
そして、何事もなかったようにキッチンへと歩くスピードスターに、ハルは一言。

「……どこを周回してた」
「南極」

コーヒーを淹れ直したバリーはカウチに落ち着くと、思い出したように言った。

「友達のことそういう風に言うの、良くないと思うよ」
「サーセン」








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おハルとバリーさんはいっそ一緒に暮らしてくれても全く困らない。
お友達の身体がエロいことについて実際ドライだといいのおハルさん。 に対して、そういう考えはダメだよってなるのがバリーさんとかクラークとか。
蝙蝠はおハルさんに近い。 蝙蝠+超人、GL+フラッシュで仲良いんだけど、性格なんかの近さの組み合わせは違うんでないかと。










【金のエンゼル I told you so.】



通信が死んでいる。

火星公転軌道の内側に入ったあたりでハルは僅かに減速した。
ウォッチタワーと交信しようと先程から数回試みているが、応答がない。
無音の継続時間はまるでゾンビ映画のそれだ。
オアからの帰路、眠気で半分目を閉じていたグリーンランタンは、その思考に渋々両目を開く。
事ウォッチタワーに関しては何が起こるか分からない。
残り5300万kmを一気に飛び越えて到着したウォッチタワーは、青い地球を背景に悠然と、外見上何も異常ない。
ハッチを外部からマニュアルで開け、エアロックの中に入る。
と、ハルはそこで、妙なものを見つけた。
地球の半分ほどの重力になるよう設計されたエアロックの中、どこから入ってきたのか、
中空でゆったりとした円運動をする、

「イースターエッグ?」

彩色され模様の描かれた卵を掴もうとして、指先からそれはふっと掻き消える。
いよいよ訳が分からない。 魔法の類とは相性が悪い。
ハルは首を傾げてウォッチタワーの内部に入った。
静かだ。
地球との行き来は大抵テレポーターを使い、外部ハッチのある区画は元々人気が少ない。
しかし、ハルが通路を進むと向こうのT字路を人影が過ぎ去った。
黒いボディスーツに黒いケープ。

「ブルース?」

だが、バットマンは普段滅多にカウルを外さない。
たとえ、ジャスティスリーグの全員がバットマンが誰なのか知っているとしても。
ハルの声が聞こえなかったのか、彼がT字路に差し掛かった時には黒いケープは次の角を曲がって消えた。
眉根を寄せ、ハルは難しい顔で頭を捻る。
友人の横顔を見たのは一瞬だったが、妙にぼんやりした表情は、淡紅色。
感じたままを素直に表現するなら、それは“たっぷり種付けされた雌”の顔だ。
が、この気難しい友人と言い合いをするのが最早趣味と言えるハルも、
あまり露骨なことは、思ったとしても口に出さない。
言えば、“彼氏”である宇宙最強のボーイスカウトから、後でブルースのいないところでやんわりと説教される。

首を傾げたハルは、ブルースを追わず、彼が来た方の通路に足を向ける。
そして、直感に従って一つのドアを開ける。
そこで見たのは、ハルの姿に驚いて目を大きく見開いた、いっぱいの。

「……バリー」

スピードスターの残像は一ヶ所に集束しようとするが、今度は振動が、

「全速で動揺すんの止めろ、ウォッチタワーの軌道がずれる」

やがて、どうにか、静止する。
耳まで真っ赤になった顔を両手で覆い、立ち尽くした、バリー・アレン。
ハルは一言。

「だから言ったろ」
「ごめん、黙って」









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彼氏は比喩よ。 ほんとにそうだったらそんなこと言わないの。
とりあえず今はここまで金のエンゼル。 増えたらここにぶちこむ。







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