たいとる : 『金襴緞子の帯といて、シンデレラが通ります』
ながさ :ほどほど×2
どんなお話 :10月31日な二人。 酔ってるようで酔ってないようで徹頭徹尾酔っている。
ちゅうい :そういえばGL/蝙蝠だよ。

+++++++++++++++++++++++++++++











1.紳士は金髪がお好き



何故その瞬間ハルは、ブロンドのカツラ(明らかに女物)をバットマンの頭部にかぶせたのか。
そこに理屈などあろうはずがない。
手持無沙汰でケイブを漁っていたハルが、偶々その(何に使うかは謎の)ウィッグを発見した瞬間、
即座に振り返ってターゲットを確認すれば、世界最高と謳われる探偵は、
迂闊にもハルに背を向け、千年の謎に挑む那由多阿僧祇。
ハルはただ、ミッションの成功に全神経を傾けた。
故に、理屈などでない。

セミロングの、胸のあたりまである金髪が、
上手い具合にその黒いトンガリ耳に邪魔されることなく頭部をふんわり覆い、
ダークナイトの、世にも無愛想な顔の前、一房落ちかかる明るいウェイブ。
一拍置いた後、漆黒の指がようやく動き、緩慢に掻き上げる。
それは、喝采せずにいられない、アブノーマルな光景だった。(蝙蝠姿だけでも充分ノーマルでないのに!)

ヒッ、とハルは息を吸い込んだ。
今この瞬間笑わずに堪えろと言われたら破裂して死ぬしかないと思った。
幸い、ハルの吸い込んだ空気は肺の中で無情に大爆発することなく、
笑い声としてケイブに何重にも木霊することもなかった。

ただ単に、ハルの意識はそこでぷつりと途切れた。






それからどのくらい経ったのか、ハルはぼんやりと目を明けようとした。
自分の前にライトがあるらしく、眩しさにまた目を伏せる。
口から吐き捨てた4語は、身体が自由に動かせなかったからだ。
椅子か何かに座った状態で拘束されている。
右手を探るが当然リングは無い。
あの*****!
唸りながらハルは顔を上げ、そこで、奇妙な人物と目が合った。

光を反射するプラチナブロンドは、縦ロール。
派手な紅いドレス。
真っ赤に塗った口唇に、元の面相が見当つかないほど濃い化粧。
瞬きすればバサバサと音がしそうな付け睫毛の両目が、驚いたように大きく見開かれている。

「どちら様?」

ハルが呟くと、相手も同じタイミングで聞き返す。
目線の高さもちょうど同じ。
その首周りや、剥き出しの肩が、やけに逞しい。
ハルより背が高く体格の良い女性はいくらでもいるが、地球での確率を言えば、
目の前にいるのは、女装した男の方だ。

それが、鏡に映った自分の姿だと気付いた時、ハルは悲鳴を上げた。
腹の底から、叫んだ。
絶叫は鍾乳洞を殷々木霊し、暗闇に休んでいた蝙蝠達がざわざわと飛び惑う。
鏡の中では、これからステージに立つらしい原色のオカマが目を丸くして叫んでいる。
自分の姿でなかったら、ハルは爆笑しているところだ。
いや、ハルは現実に、笑っているのかもしれない。
自分でも区別がつかない。


「煩い」


大概、その声は腹が立つほど、落ち着いている。
椅子から動けないハルが首をねじると、“普通”の姿のブルースが上階から下りてくる。
が、ハルの傍まで来ると、如何にも紳士然と視線を逸らし、手で隠す口許が、微笑している。

「ブチ殺すッ」
「ん、失礼。 良く似合っているじゃないか、傑作だ。 私も苦心した甲斐があった」
「ふざけんなクソ野郎! つかおまえ何でこんなの持ってんのサイズぴったりなんですけど!」
「ドレスと靴は以前知人から記念に贈られた」
「それ何関係の人? 何の記念?」
「しかし、使う機会が廻ってくるとは全く予想していなかった。 流石だな、ハル」
「褒めてない全然褒めてない」
「阿呆のように意識を無くしている間にそんな格好をさせられたら、私なら憤死してしまう。
 だがお前が喜んでくれて、私は嬉しいよ」
「オマエ、本当、後で酷いからな?」
「そのカツラについては私も良く分からない。 ディックがふざけて置いておいたのかもしれない。
 が、丁度良いので活用した。 化粧品と付け睫毛は元々あった物だが、
 まあ、なかなか珍しい経験をさせてもらった」
「だったら自分の顔でやれッ 人をオモチャにすんな!」
「玩具だと? そんないい加減な心で人間一人の頭から爪先まで完全な別物にすることなど出来るか。
 他人に付け睫毛を施すことがどれほど繊細な作業なのか、貴様分かっているのかッ」
「うん、逆ギレする点がなんか違うし、おまえが無駄に職人気質なのは俺も知ってる」
「ところで、やるべきことがまだ残っている」
「ハイ?」
「備えてあった物では色が不満なので、調達してきた」

そう言ってブルースは持っていた包みから、ころんとした小さな赤いボトルを取り出した。
蓋の部分が黒く細長い。

「……まにきゅあ。」
「どうしたハル、顔が変だ。 ああ、すまない、思わず本心が」
「俺、そろそろ本気で怒っていいよな?」
「化粧道具の中にコーラルピンクはあった。 しかし、この場合はもっと鮮烈な色であるべきだろう。
 ドレスと口紅の赤に見合うだけの毒々しい紅が良い。 そう思わないか」
「ヘンタイだと思います」
「何を言う。 その他の全て整えておいて、爪だけは何一つしない。
 それは不条理だ。 あってはならないことだ。 私はお前のために言っているんだぞ、ハル。
 これからディナーに出かけるというのに」
「ハァ?!」
「当たり前だ。 何のために私がここまでしていると思う」
「おまえバカか! 絶ッ対行かねェッ 行くはずないだろ!!」
「良い店だ。 きっと気に入る」
「知るかっ」
「無理を言ってテーブルを用意してもらったのに」
「いつものことだろ大富豪!」
「お前は知らないかもしれないが、この時期のゴッサムはどこも半年前から予約で埋まる。
 友人のレストランだから、突然の私の我儘を承知してくれたんだ。
 しかし、もしもお前が来てくれないのなら、せっかくの好意を無にすることになるな……」
「ぐ、」

淡々と、他人の好意を盾に取る。
その陰険さを真綿に包み、ブルースはハルの後ろに回ると鏡を覗く。
渾身の出来映えを確認する眼差しは、犯行現場の刺殺体に注がれるように、情熱的だ。

「やだ、今日はなんだか強引……」

鏡の中のプレイボーイが、にっこり微笑む。
その手が銀糸の髪を撫で、今夜のお相手の頬に優しいキスをするが、
真っ赤に塗りたくった口紅を少しわけてやろうとすると、すっと逃げる。
ハルは舌打ちした。

「こんな格好じゃ恥ずかしくって、“ブルース・ウェイン”と一緒に歩けないわ」
「今夜の君は、これから息子によって謀殺されるアグリッピナのように、素晴らしいよ」
「絶対褒めてねェ」

露骨に顔を顰めるハルとは逆に、24/7が無愛想な仏頂面の暴君は、今日は殊の外ご機嫌麗しく。
この頭のおかしな友人を甘やかし、良いことなど何一つないと、ハルは知っているのだけれど。

「心配するな、今夜は特別だ。 仮装の一つもしなければ逆に周囲から浮く」
「なんで?」
「今日は何日だ」
「いきなり聞かれると、あー、こっちに帰ってきたのが金曜だったから……」
「ハロウィンだ。 市街地に少しでも入ってみろ、地獄の蓋が開いている」






その夜、爛熟のゴッサムに溢れた、悪霊に魔女、ありとあらゆる魑魅魍魎と、幻想世界の住人。
ヴァンピレラとダース・ベイダーが、オートボットと同じテーブルで乾杯してる。
"Trick or treat!"
良い子はお菓子をたくさんもらって、今頃は家でベビーシッターとホラームービー。
極彩色の宵闇の中、ふらふら彷徨うのは、いつまでも悪い子のままの怪物達。

それら有象無象、ヒールで蹴散らしながら。
化生のような真紅のドラッグクィーンが、ヴィクトリア朝英国紳士を引き連れ、闊歩する。











+++++++++++++++++++++++

ヒール男子。
最初のブロンドのヅラは、ティムが使ってたアレです。














2.金襴緞子の帯といて、シンデレラが通ります




ゴッサムシティは、東海岸で最も古い街の一つである。
幾多の人種と民族、文化と宗教が、その歴史の中で複雑に交差してきた。
多種多様な構成者によって街という集団を形成、機能させる時、“祭事”は欠かすことができない。
17世紀の記録によれば、ゴッサムでは万聖節の前夜、誰もが仮面をかぶり異形の姿をして祝ったとされる。
それは既に、一移民コミュニティ内の民間行事を脱し、街全体の祝祭として定着していた。
ゴッサムは、“ハロウィン”が北米で最も早く大衆化した都市と言えるだろう。
現在では、盛大にして終末世界のようなパレードや、仮装の見事さを競うコンテストなどが催され、
ゴッサムのハロウィンは世界中から参加者と観光客の集まる祭典となっている。
とかなんとか。


ハルはただ、妖魔達が跳梁跋扈する雑踏を、放心したように眺めていた。
まるで極彩色の煉獄だ。
向こうをエルビスの一団が歩いていく。

客も店員も凝った扮装という異様なディナーは、ブルースの言葉どおり、大満足のものだった。
その頃、ヴィクトリア朝英国紳士には上品な髭が備わっていたが、
バーを渡り歩くうちにいつのまにか消え、代わりにウォッカの瓶を持っていた。
普段アルコールなんて飲まない奴にそんなものを与えては危ないので、ハルが没収し、今も飲んでいる。
ビルに囲まれた木立の中のベンチ。
ヒール高12.5㎝の身には休めることがありがたい。
隣のベンチでは、カブトムシとサターンⅤロケットのカップルが仲良く座っている。
酒瓶を掴んだドラッグクィーンなど、目立つものでない。

木立を透かして輝く街は、くるめくような光に彩られ
溢れる光の幾条、壮麗なゴシック大聖堂とガラスの摩天楼を闇に浮かべ、更に上空へ
なのに、ふと目にする物陰や、覗き込む路地裏が、底知れず暗い
光の街を、異形の影が途絶えることなく流れていく
錯視のような、くらり
酔っている

静けさにハルは傍らの人間を見た。
150年前の倫敦からやってきた紳士は、ハルには聞こえない妙なる調べに耳を傾けているのか、
両の目を瞑っている。

「酔ってんのか」

返事はない。
かわりに、その身体がゆっくりと傾ぎ、ハルの肩に寄りかかった。
ハルは思わず二度見した。
しかし、どう目をぱちくりしても、ブルースはそのまま動かず、ただ静かに、目蓋を伏せている。
そういえば、酔っ払った姿というのを見たことがない。
元々飲めないのか、アジアの山奥で修行する坊さんみたいなものだと思っていた。
偏屈で、三百六十五日事件を追いかけることにしか興味がない奴でも、
こうなると少し、可愛い。
その顔を覗きこむように、ハルは唇を近づけた。
が、もう数cmもないというところで、ブルースが、くっ、と笑いを噛み殺した。
それは気配だけを微かに伝える程度のものだったが、
完全に、失笑だった。

「おまえ、今のタイミングは、心が折れる」
「ほう、そんなものを備えていたとは」
「あったんだよ粉々になるぐらい繊細な乙女心がッ アタシ帰る!」

ハルは、銀色のコイルのような縦ロールをばさりとやって勢い良く立ち上がり、
ヒールの高さに一度ぐらついた。
ブルースは目を明けると、唇の端を意地悪く吊り上げる。

「ハル、キスしないのか?」
「うっせェバカ!」

実際のところ、ハルは怒るどころか酔っている。
ブルースが*****で****なクソ野郎であることは今日初めて知ったわけでないし、
ハルは偶々赤いドレスがお似合いな酔っ払いであって、ガラスの心を踏み躙られたオカマではない。
よろめく思考には、それらが妙にばかばかしく、笑い出しそうになる。
だから、何故その言葉が口をついて出たのか、分からない。

「あたし達、やっぱり無理なんだわ」

くるりとブルースに背を向けて、ハルは首を傾げる。
こんな場面を、どこかで見たことがある。
陳腐な別れの台詞だ。 劇場で見ても観客の印象には残らない。
しかし、ハルはいつか誰かに、同じ言葉を、告げられた。
ぼんやりした記憶を辿ってみるが、かろうじて思い出すのは、その話し方ぐらいなもので、
彼女の顔も名前も靄の彼方。
むしろ、そんな記憶が微かにまだ残っていたことに、驚くが。
一瞬感じた寂しさは、誰のものだろう。

「ハル」

振り返ると、英国紳士はベンチから立ち上がっている。
切り裂きジャックでも追いかける気になったのか。
なんだ、その神妙なツラ。

「私が悪かった」

幻のように煌く街を背に、冴えた色の瞳が、ハルを真っ直ぐ見据えて言い放つ。
その胸に、ハルは思いきり飛び込んだ。
勢いと衝撃からいえば“ぶつかる”で、肩から当たればタックルだ。
それを、受け止めて小揺るぎしない程度には、鍛えてある。
カップルだらけの夜の公園で、成人男子が二人、ひしっと抱き締め合っている。
ハルにもちょっと経験がなく、ひひ、と妙な笑いが込み上げてくる。

「どうせアタシのことなんて、その他大勢としか思ってないんでしょ」
「君は私にとって、“特別”な存在だよ」
「それ、今まで何人に言った」
「君が初めてだ、今週は」

笑みを含んだ声が互いの身体に心地よく響き、どちらのそれかわからない。
陶然として、あらん限りの力を込める抱擁。

「ほんと、サイテーな野郎」

真実であるから、言えるときに言っておきたい。
ブルース・ウェインは、正真正銘の“プリンス・チャーミング”だ。
ただし、凡そ他人には理解不能な行動理念により、シンデレラ達のガラスの靴は、無駄にされ続ける。

「そんな僕を、君ほど理解してくれる人はいない」

その意味が、まるで真摯なもののように聞こえ、ハルはにんまり赤い唇で笑う。
彼に言わせれば、ブルースの方がよほど性質が悪い。
けれど、おそらくは。
ハルはこれから先も、背を向け去っていく彼女達を、黙って見送るだけだろう。
引き留めてほしいというその願望を、察しないわけでもないのだが。

だから、この抱擁は。
酔っ払った阿呆が二人、存在するはずのない恋人を、演じている。

「アタシのこと、大事?」
「僕には君だけだ」

囁かれる声が、くらくらするほど甘い。
悪い酒だと思いながら、爪先立ちの多幸感に酔い痴れる喜劇。

「この僕が、金曜の夜にピザとチョコレートアイスで70年代ホラー映画を見るなんて、
 そんな子供じみた真似、君と一緒でなければ考えられない」
「なんか腹立つ」
「半年間消息不明で遂に宇宙の塵となったか、と思わせておきながら、
 留置場から保釈金を無心する電話を寄越して唖然とさせるのも、君ぐらいしかいない」
「あん時はちゃんと事情があっただろ」
「正直なところ、君はこの世の誰よりも、僕を苛立たせる」
「ハイハイいつもすんませんー」

反省する気など最初からなく、ハルはわざと凭れかかる。
ブルースは、笑ったのか、呆れたのか。
透明な吐息が微かに。

「けれど、君は僕にとって、」


その時、鳴動する大気が続きを掻き消した。
花火だ。
道行く人々は誰もが天を仰いだことだろう。
夜空を、街を彩り、華やかに咲き乱れながら、虚空から生まれては消え、また煌く光の散華。
ハルは束の間、その美しさに目を奪われた。
しかし、彼の“恋人”が空を見上げてはいないことに気づくと、
抱き締めている腕をゆるめ、その顔を覗きこもうとした。
頭上全天、乱舞する炎。 鳴り止まない空気。
ブルースは、うつむいている。
さっきまで上機嫌で、頭の中がふわふわのコットンキャンディーだった王子様が。
唇をきゅっと引き結んでいる。

その瞬間、ハルの酔いはどこかに吹き飛んだ。
今まで何の遊びをしていたのかも頭から消え去った。
ハルは、気付いた。
彼の目の前にいる人物は、辛うじてまだそこに立ち竦んでいるが、
“正気”なのだ。

酒の過ちならどんな悪ふざけもいい。
永遠の恋を語ろうが酩酊の戯言だ。 嘘も真実も反吐と一緒に便器に流して朝には忘れている。
が、二日酔いより遥かに悪いのは。
素面の自分など取り戻すべきでない真っ只中、我に返ってしまうことだ。

 『けれど、君は僕にとって 』

静かにブルースが後退りしようとする。
ハルは反射的にその肘を抱えて離さない。
向き合う二人のそれは抱擁のようで、花火を楽しむカップル達とは真逆の緊張を孕んでいる。
俯いていたブルースが、どこか途方に暮れ、ハルを睨む。
夜闇よりも深い藍色の瞳の底、天の炎が揺らめいている。

青天霹靂驚天動地。
ゴッサムシティの断罪者たる冷徹無情のヴィジランテ。
しかしその正体は、温室生まれの荒野育ち、不器用にひねくれた“坊ちゃん”で。
うっかり理性が“正しい”方向に機能すると、人間を一度も乗せたことのないテスト機のように、
何がエンジンを大爆発させるか分からない。

最早これは、いつものお遊びではない。
もしもハルが、二人の間の残り僅かの距離を縮めようというのなら、それは決死の覚悟を要すのだ。
(あるいは一切全て、アルコールのもたらす不可思議な帰結。)
胸骨の内側、赤い塊が跳ねた。
殴られたような衝撃は、しかし高揚というものにも似ている。
たとえ今、爪先立ちする足元が、断崖絶壁だとして、
ハルは元来、退くことだけは出来ない。

「ブルース」
「黙れ」
「さっき何て言いかけた?」
「黙れと言っている」
「そうやって都合悪くなるとすぐ怒るー」
「12時を過ぎた。 私には“次”の予定がある。
 その顔面を陥没させたくないのなら、今すぐ、手を放せ」

素顔の暗夜の騎士は、存外鮮やかに、瞳に殺意の色が煌めく。
些細なことで機嫌を悪くし、意地っ張りすぎて子供みたいな時もある。
そんなブルースを間近で眺めるのは、この世の誰よりも苛立たせるというハルの特権なのだろう。
低く押し殺した声が、気の短いカウントダウンを始める。
だからハルは、小首を傾げて聞いてみるのだ。

「アタシのこと、愛してるって言って?」

ブルースは一瞬、虚をつかれたように睫毛をぱちんとふるわせた。
目標を死角から狙っていた左の貫手は、眼窩を抉るという役目を果たす前に失速し、
その長い指は結局、主の表情を隠すために使われた。

「貴様という奴は、どうしてそう……」

溜め息まじりの呆れ声。
けれども、

「可愛らしいだろ」

駄目押しの一言で、遂に、笑った。







ゴッサムシティのハロウィンは。
夜空を一斉に彩る花火と、あらゆる教会から鳴り響く鐘の音で終わる。
じきに木々の葉は全て落ち、感謝祭も過ぎればもう冬になる。
秋の祝いは、長く凍てついた夜を迎え入れる、この街を造った人々の、祈りの記憶なのだ。
道行く足は束の間立ち止って、天を仰ぎ。
酔い潰れて寝転がる路地裏、夢見心地に鐘の音を聞く。
そして恋人達は、抱擁。

摩天楼の中の公園で。
真紅のドラッグクィーンと、ヴィクトリア朝英国紳士が、キスをした。
それは十月三十一日の夜、ありふれた光景の一つだった。











++++++++++++++++++++++++++++++


何故70年代かと言うと、
クリスチャン・ベール →アメリカンサイコ →悪魔のいけにえ(1975年)
でした。
暁にチェンソーぶん回すという芸術。

ぼっさま的に、12時からがハロウィン本番だと思うの Trick and Trick! 主にアーカム方面に。
ので、最初からシラフだったと思う。ホントは。 でも普段から酔ったふりしてること多いので、アルコールを摂取しようがしまいが関係ない。
なのに、良く分からんタイミングで機能停止するという積極的めんどくささを私は推奨したい。
ヒール+おハルさんはブルース様よりデカいと良いですね。








もどる→