たいとる : 『花とファザコン』
ながさ :短い×4
どんなお話 :父と子についての小ネタ集。 new52のB&Rを踏まえつつ、ダミアンとディック、デュカード(息子)とブルース様(若)、サイボーグと黒と緑。
ちゅうい :一部ほのかに女性向けだよ。




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1.うちの父親が可憐すぎる件

【BATMAN & ROBIN ANNUAL #1 のちょっと前のダミアンとディック。
 読んだことないよ、という方は、ダミアンがパパのために隠れて色々計画してると思ってください。】


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最近、ディックの部屋に、ダミアンが巣を作った。
位置はロフト。
覗くと攻撃してくる。
時折、謎の工作音を響かせている。
合鍵を渡してあるので、ディックが不在の時でも自由に出入りしているらしい。
けれども、“秘密基地”の存在を、ディックはブルースに教えてない。
誰にも言わないと、男と男の約束をしたのだ。



そんなある日、ディックがキッチンで食器を片付けていると、ドアを開ける音がした。
見ると、何か大きな荷物が、玄関に立っている。
ジーンズの足とスニーカー。
両手で抱えたダンボール箱の後ろから、ひょこっと少年の顔が覗いた。
ディックの良く知っている人と、同じ色彩の瞳の。
不敵に笑う十歳児。

「グレイソン」

ココア、買い忘れた。
ディックは頭の片隅でそんなことを思った。

「来月は父の日だ」
「ああ、そうだっけ」
「鈍い奴め、貴様はどうするつもりだ?」
「うーん、ネクタイとシャツかな」

それと、無限の愛。

「ありきたりだな」

ふふんと鼻で笑ったダミアンは、自分の半分ほどもありそうな荷物をリビングに運ぶ。

「それ何?」
「父さんの弱点だ。 見てろ、電撃戦になるぞ」

ディックは小首を傾げ、戸棚を閉める。
あのブルースの、弱点。
持ち運び可能な品物なら一つ欲しいが、
父の日が闘いの行事のように聞こえるのは、何故だろう。

「うちの父親に不意打ちを食らわせるには、周到に計画を練る必要がある。
 対象について、可能な限り多くの情報を収集しておかなければならない。
 これはその資料だ」

ずしっと重たい音がして、ダンボール箱がテーブルの上に置かれた。

「……アルバム?」
「トーマス・マーサ夫妻のな。 それと、手帳に日記」

ディックは上から一冊取り上げてみた。
花と小鳥をあしらった美しい装幀は、マーサ・ウェインのものだろう。
たしかに、これはあの人の、弱点だ。

「二人がゴッサムシティの名士で、一人息子を残して殺害されたのは知っている。
 けれどその他に俺が知ってるのは、彼等の息子が復讐を誓ってヴィジランテになったことと、
 それが俺の父親だということぐらいだ。
 祖父母がどういう人達だったのか、ほとんど知らない。
 ペニーワースは、まずアルバムを見ることを提案した」

ダミアンは一冊ずつ箱の中から取り出し、テーブルの上に分類していく。
その瞳が、ディックを見上げた。

「俺は父さんに、二人の想い出をあげたい。
 悲しい記憶なんかより、二人の幸せな姿が、あの人の中に残ればいい」

真っ直ぐに、言うので
ディックは黙ってしまった。
子供はこんなに、大人を驚かせるのか。
チビっ子だと思っていたのが、瞬きの間に成長している。

「……電撃戦?」
「警戒の弛んだ隙を突く」
「良いプレゼントだ」

誇らしい気持ちいっぱいで、ディックは弟の頭をわしゃわしゃ撫でた。
いつもどおり、うるさそうに手で払われた。
ダミアンは、箱の中のものを点検しようというらしく、
テーブルに積み重ねられる、大きいもの、小さなもの。
どれもどれも、いっぱいの
過ぎ去った家族の時間。
その中に、
濃紺の地を銀の蔓花で飾った、揃いの意匠のアルバムが、何冊かあった。
手に取って中を開くと、ダミアンがじろりと睨む。

「まだ整理中だぞ」

しかし、ディックは思わず、にっこり笑っていた。
アルバムの中にいたのは、男の子だ。
今のダミアンよりも、ずっと幼い。
優しい黒髪の。
瞳は、貴石の澄んだ藍。
まだ頼りないような足で。
けれど、すっくと緑の大地に立って。
愛らしい、小さな両手には。
P-51マスタングと消防車。
あどけなく輝く瞳は。
偉大な遠征を成し遂げた瞬間のように。
ディックに微笑みかけている。

このアルバムは
同じデザインの全て
たぶん、彼等の
愛してやまない息子のため

「グレイソン、気持ちの悪い顔で笑うな」

訝しげなダミアンに、ディックは笑み崩れたまま写真を見せた。

「ブルースちゃん三歳! かっわいー。」

幼子が誰か知ると、ダミアンは片眉をひくっとさせた。
それはちょうど、彼の父親が驚いた時の表情と、良く似ていた。
そして、写真に顔を寄せてまじまじと観察し、ダミアンは言った。


「うちの父親は、天使か」









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B&R ANNUALは、父の日とは言ってませんよ。念のため。
あの話だけは是非見ていただきたい……。
あと、ダミアンの年齢が見るものによって違うのは何故ですかDC。















2.子供の王国

【B&Rの最初のヴィラン、NOBODYとブルース様の若かりし頃。
 読んでないよ、という方は、ブルース様は昔、ヘンリー・デュカードとその息子のモーガンと一緒に暮らしていたことがある、と思ってくだされ。】


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神とは、父親である。
そして、モーガンは、彼の息子である。
無秩序な地上で神に祝福された、たった一人の人間。
その唯一の、絶対の信仰。
しかし。



「……モーガン」

唇に、赤い血が滲んでいた。
その顔を目掛けてモーガンはもう一度拳を振り下ろす。
襟首を掴まれたまま、それは抵抗しない。
呻きもせずにまた殴られ、飛び散った血がTシャツに赤く跳ねた。

モーガン。

けれど、その唇は。
睦言を囁くように。
いつか、父親の帰らなかった晩。
夜闇の底、彼の名を囁いた、
その声が。

「私がお前の父親と寝たとして、お前との友情に、変わりはないよ」

藍色の、毒薬よりも澄んだ瞳で
悪魔が微笑った。









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あの父子とぼっさまの関係、エロい。

デュカードっつったら映画の方を思い出しますが、元はDETECTIVE COMICS #598-600の『BLIND JUSTICE』です。
ぼっさまにとっては父親的な存在だったけど……的な。

ぼっさまは別に、モーガンをいじめてるつもりはないのです。
なんで怒られてるのかも良く分かんない。
ただ、人間若いと、自覚なく嗜虐的だよね。 大人は自覚があるけれど。














3.虹色リコリス

【ウォッチタワーのある日のリコリス。 サイボーグから見るとGLも蝙蝠も変な人だよね。
 ジャスティスリーグが出来てからあまり経ってない。 と思わせといて既に数年は経ってるかもしれないあたり、原作からあやしい。】


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そんな話を、バットマンにしていると。
ヴィクターは、向こうからグリーンランタンがやって来るのに気づいた。
何か食べてる。
あ。 リコリスが空色。
と、思ってる間にずんずん近づいてきて、バットマンの隣にどかっと座ると、
その顔を覗きこむように言った。

「どこかの大富豪に似てるって言われねェ?」

いきなり、まるで、今季はどのチームが優勝する? と聞くように。
そんなグリーンランタンと、無表情な(というより表情の分からない)バットマンを見比べ、
ヴィクターは少し、困った。

彼は、グリーンランタンがハル・ジョーダンであると知ってるし、
バットマンが、似ているどころか正真正銘のブルース・ウェインだということも承知している。
知りたいと思ったわけでない。 けれど、分かってしまうのだ。
そして、それはきっと、
バットマンには都合が良くない。

と、思ったのだが。
当のバットマンは、静かに首を巡らせ、予定外の質問者の方を向くと、
カウルを外した。

「私は、大富豪に見えるか」

怪物の仮面の下から現れた、端整な彫像のような顔を、
グリーンランタンは暫く眺め、はっきり言い切った。

「いや、全然」

そして。
バットマンに青の、ヴィクターに赤のリコリスをくれると、
またふらっと、どこかに行った。


ヴィクターが無意識に実行した認識システムの結果は、
目の前にいる素顔のダークナイトと、
ゴッサムシティの、頭から爪の先まで蜂蜜と砂糖菓子で出来てそうなプレイボーイは、
98.8%の確率で、同一人物である。
しかし、ヴィクターは、その結果が正しいと思わない。
何故なら、コンピュータは両者の決定的な違いを識別出来ていないからだ。

その眼の、鋼の冷徹。

美女を連れてレッドカーペットを歩くセレブと、同じ顔、同じ色の瞳だとして、
これが、同じ人間か?

確かなことは、ヴィクターには言えない。



そのダークナイトは。
何故かまだ、難しい顔で。
彼の手の、コバルトブルーの菓子を眺めている。

「食べないの」
「……こういう物を口にする習慣が無い」
「だったら、食べてみれば。 そっちのはラスベリーで、こっちは苺」

感情の乏しい声が、苺、と呟いた。

「交換する?」

ヴィクターを見上げたのは、
眉を顰めた、藍色の瞳。







* * * *



「……で、バットマンは結局、そのラスベリー味のを最後までマズそーな顔で食ってた」

シュールだった。
と、付け加えるヴィクターは、自然と笑っていた。
STARラボ。 定期検査とアップデートが済むのを待ちながら、
ふと先日のことを思い出したのだが。
ストーン博士の方を見ると、彼も表情が柔らかで、
珍しい、と思いながら、ヴィクターはまた、笑ってしまった。


けれど、ヴィクターは知らない。
ストーン博士は、息子が笑顔だから、笑ったのだ。









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サイボーグのとこも難しい父子関係なのよね……。 でもたまには和やかな時間があってもいいじゃない。

リコリスは渦巻きのじゃなくてtwizzlersのレインボーなあれを想像してるんですが、
食ったことがないので青が本当にラズベリーかは知らぬ。
つか、色が鮮やかすぎて食べ物だと思えないんですが、へー、あのツヤツヤは蜜蝋なんだね。
ちなみに、リコリスはウォッチタワーのおやつコーナーに置いてあったもので、誰のものかは分からない。 でも食べる。
小腹空いたね。

JLの緑は、テレビとか見ないし、と胸を張って言いそうな人なんで、ぼっさまの顔と名前は覚えても、それとゴッサムの大富豪が一致しないんじゃないかと。
相当後まで。
もしかしたら現在でも知らなかったらどうしようかとドキドキしてくるリランチJLです。















4.

【ダミアン9歳 AND SONの前。 まだ島暮らし】

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女王のいない夏。
北の岬の突端で、海を見ていた。
絶海の、青い弧の向こう。
現れる影はない。

“あなたのお父様は、遠い所にいるのよ”

飛行機も潜水艦もあるのに、
辿り着けない “遠く” とはどこだろう。
顔も名前も知らない父親だ。
会いたいわけではないけれど。


海藍
白雲立つ


その向こう
おぼろな影を想っていた。










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