ながさ :短い×3
どんなおはなし :愛にまつわる小話。 1は蝙蝠の子供達とパパ。 2はハルと蝙蝠。 3はハルとブルースとバリー。










1.I Love You. を訳してみよう。

長男~四男が、パパに向かってI love you.と言ってみるバレンタイン
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その想いが
汲めども汲めども
溢れるので



一人は、彼の頬に口付けした。
次の一人は、手の甲に恭しく。
優しい三人目は、慈しみ深く、眦に。
最後の一人は、思いきり背伸びをしても、まだ足りない。
だから、彼の方が屈んでくれた。


「……愛しているよ、私も」


はにかむように
やわらかに、
微笑みは
凍てつく大地の底、清冽な河が流れるようだ。
一度も陽にふれることなく
春風の漣も知らず
無辺無尽
無上無量
五十六億七千万夜
滔々と流れ続ける、大河
ただ孤児だけが
その夢に、舟を浮かべるという


愛している。


子供達が求めれば
何度でもそう答えるのだろう。
けれど
彼の背を見つめる二人は
互いにそっと、秘密めいた目配せ。
双生児のように笑う。


その理由は、名探偵にも解き明かせない、謎なのだ。









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順に、ディック、ジェイソン、ティム、ダミアン
この中で二人、パパ大好き!の範疇を超えて I love you. を言った息子がいます。
パパにはまったく通じませんでしたが。
家族を愛するパパのスルー能力は神の領域。
手の甲にキス、はゴッドファーザーに対するあれです。
バレンタインぐらい子供達はパパをぎゅむぎゅむにして甘えてもいい。















2.Marry Me!

ハルと蝙蝠 ウォッチタワー これから仕事
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誰のイタズラか、シフト表の隣。
ブルース・ウェインの婚約記事が留めてある。
それによれば、これまで数多くの浮名を流してきた大富豪は、
前々より噂されたキャロライン王女と、遂に誓約したという。

「ほう」

と、黒いグローブの指先が。
ゴシップ記事の切り抜きをボードから外した。
そんなダークナイトの隣、グリーンランタンは
スムージーのストローから口を離す。

「王女?」
「ウェインが欧州にいた頃、知り合ったと書いてある」
「で、結婚すんの」
「初耳だが、現実味に欠くな」

鼻先まで隠す漆黒の仮面は、常と同様、表情が乏しく
全くの他人事であるように答える。

「現代の王族というのは、窮屈なものだ。
 国民は彼等に清廉を求めるが、 パパラッチにはスキャンダルを求める。
 一度や二度、ウェインのような男と何事かあったとしても、
 己の立場を危うくするようなことを、彼女はしない」

ずここっ、とストローを鳴らして。
ハルはその顔を覗き込んだ。

「でも、“何か”はあったんだろ?」
「ところが、友人として食事しただけだ」
「ホントかー?」
「ウェインはあれで、結婚前の女性とは清い交際をする。
 ……ハル、何の数を数えている。 自分の女の名前も覚えていられんくせに」
「王女、美人だな」
「そういう女性を、ウェインが誘わない方が不自然と言えるだろう。
 が、……それだけだ。
 彼女と添い遂げるには、ウェインという男は些か、
 不都合な点があった」

切り抜きを眺めていたハルは、
不都合、という言葉に顔を上げた。

「へェー」
「なんだ」
「おまえ実は、未練ある?」
「それなりにな」

砂礫のような声は、無味乾燥、無表情。
にんまり笑ったハルのことなど、
その眼に入れているのか、いないのか。

「だが、彼女がどれほど魅力的だったとしても、
 ウェインには、他人と共有すべきでない秘密がある。
 聡明な彼女は、いつかその事実を覚るかもしれない。
 ウェインは、臆病な男だ。
 そんな彼女を伴侶にする勇気はないだろう」

世界のセレブリティ達は、今日もカメラに向けて微笑。
その皮膚一枚下、隠しているものが、
羊か、狼か、蝙蝠か。
暴かない方が良い秘密もある。

「……が、真実は違うのかもしれない」
「うん?」
「とある精神科医が、雑誌に寄稿していた。
 曰く、ウェインの行動は、母親の喪失という幼少期のトラウマに規定されているらしい。
 彼は常に“理想の女性”を探し求めているが、それは過去の喪失に対する代償行動であり、
 どんな女性が彼の前に現れたとしても、ウェインの手にあるガラスの靴は、
 “現実世界”の女性には、決して合わない。
 ……ハル、お前の理想は何だ」
「えーと、ブロンドでおっぱいデカい」
「私もそんなところだ」

と、
微かに、憂鬱に
揺らす溜息。

「なんだおまえ、なんか嫌なことあったのか」
「結婚したい」
「ハ?」
「退屈極まりないパーティーに出席しなくてはならないのも、
 三度以上デートすることはないと予め分かっている女性を食事に誘うのも、
 そんな茶番は全て、ウェインが結婚してしまえば解消されると、気付いた」

定理でも述べるような 滑らかさ。
その紙一重の思考を、ハルは危ぶむ。

「意味わかんね。 ちゃんとデートしてやれよ」
「a)何故か事件に巻き込まれる。
 b)何故かウェインは行方を晦ませる。 連絡は取れない確率の方が高い。
 c)三度も会うと、相手の女性が期待するのを、ウェインは察してしまう」
「……あー。」
「d)彼女の期待も努力も、実を結ぶことはないと、彼は知っている」
「おまえは刺されても文句言えないな」
「そうならないよう願いたい」
「で?」
「理想などない。 髪色も胸囲も問わない。
 ただ、私の事情を理解してくれるなら、充分だ。
 あとは、自分の身を自分で守れる程度の技量があれば、他の条件はない」
「なんだ、簡単そうだな」

そう答えたハルは、はっと友人の顔を見た。

「まさか、おまえ今、俺にプロポーズした?」
「何故そうなる無産階級」
「なにも知らないアタシをもてあそんだくせに!」
「腹でも膨らんだら考えてやろう」


二人、ほろ酔いの月宵を歩むに似た、
眼下の遥か、青い水を湛えた惑星。

母と娘は海から生まれ
優しい波間に眠るというが。
息子達は、木石の生まれであるので
渚をはなれ
星降る丘へ
空へ
銀河、永久無縁の
孤独なる自我。


「あー、男って繊細だ」










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そして今まさに、ブルース様の女性関係が原因で世界が危機です2013年2月現在。
ぼっさまをひょいと担いでベッドまで連れて行ける程度に強くたくましいおなごが嫁に来てほしいものです。
王女がどうのというのはイヤーワンだった気が。














3.愛とか関係ない話。

既に二軒目 ハル、ブルース、バリー
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ゲイだ。

ハルはビールを呷ると、今晩何度目か、そう思った。
ステージの上ではセクシーな衣装のダンサーがパフォーマンスの最中。
曲調と照明が切り替わる。 酔っ払い達の歓声と喝采。
が、しかし。
ハルの隣にいる二人は、トップレス寸前の、
(肉体によって表現する“芸術”であり、決してストリップクラブではない。)
躍動するしなやかな肢体に目もくれず。

実に楽しそうに、
二人だけで、
語り合っている。

一人はハルの親友で、CSI勤めのコミックギーク。
もう片方は、どこかの大富豪にやたら似ているが、単なる同姓同名だ。
(ハルもバリーもそんなセレブと面識などあるわけがなく、)
(大富豪本人は今日もガールフレンドと雲隠れ。)

普段は無愛想なブルースが、微笑を含み、何か言った。
その声を喧噪に浚われ、バリーが笑って聞き返すと、
ブルースは今度は耳元に唇を近づける。
頷きながら耳を傾けていたバリーが、目を丸くした。
What the F***!
声には出さないそれを、ブルースが肩を震わせて笑う。

完全に、ゲイだ。

が、しかし。
ハルは真相を知っている。
朗らかに談笑する二人の、今の話題は、焼死体の分類で、
その前は、凶器に由来する飛散血痕の形状差、だった。
如何にそれらがヴァリエーション豊かであるか、
純粋な熱意と、
ハルにはちっとも分からない専門用語で、
語り合っている。

「……バリー、おまえのセルフォン貸せ」
「いいけど?」
「旦那の浮気現場写真を嫁さんにメールする」
「今日はブルースが一緒だから安心ねって言ってた」
「公認済みか!」
「付け加えると、ハルもいることは心証が悪くなるから彼女に言ってない」
「俺? なんでッ」

わめいては、みるものの。
妙なスイッチの入ったらしい二人、子供のように熱心に。
そこらの殺人鬼よりも偏向的に。
きもちのよくない話を、
延々と、飽きもせず。
(え? 今なんて言ったの? それ何語?)
最早、パワーリングの必要な領域に突入している。

どうでも いいじゃないか。
サンプル抽出も、分析も、犯人の身柄確保だって、
リング一つがあれば、全部片付く。

口を尖らせて文句を言えば。
哀れむような目が二対、もののあはれを知らぬ奴と。
そっちこそ、紳士の社交場にいながらアルコールを一滴も飲まず、
場の情趣を汲み取る気もまるでない。
あまりに、無粋だ。

“In English Please.”

あ? 今なんつった根暗蝙蝠ッ 俺がビールで酔うわけねーだろ。
覚えてねェよどんだけ飲んだかなんて。
あーあ゛
さっきの彼女、誘っとけば良かった……。

と、もっともらしく嘆いてみせるが。
相手がそんな人情と無縁の奴らであることは、ハルも承知している。
しかし。
殺人事件の現場になったわけでもない、ただのクラブで、
この三人が、人並みに、友人として過ごすこと自体、
そうある機会でない。

足るを知るは、美徳だ。

ハルは、いつのまにか空にしたジョッキを掲げると、
ビールとウェイトレスが向こうから来てくれるのを待った。











何回か目が合ったから。
それと、彼女に礼を言ったときの笑顔。
ウェイトレスをしている彼女は、
だから。
そのテーブルを離れた後で、もう一度振り返った。
もしもさっきの客が、まだこちらを見ていたら、
後で声をかけよう。

けれど、振り向いた彼女は、見た。
先程ビールを注いでやったあの客が、立ち上がって、自分の椅子を動かすと。
友達らしい二人の間に、わざわざ割り込んだ。
並んだ背中が、仲のよろしいことで。


なーんだ、ゲイかぁ。













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特に意味はないけれど
愛とゲイって似てる。

BLACKEST NIGHT #0に、
↑の二人が科学捜査と犯罪心理学について夜遅くまで語り合ってた、って部分があるんですが。
それを眺めてるおハルさんは何してるの? ぽつんとしてるの?
とか思った末にこうなりました。









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