たいとる : 『ラブコールC』
ながさ :ほどほど
だいたいどのあたり :ジャスティスリーグが出来たか出来てないんだか時代。リランチ後のJUSTICE LEAGUE #6のちょい後で。
どんなおはなし :ぶっちゃけジャスティスリーグとか何ソレ、食べられる? とか思ってるGLのとこに蝙蝠がやってくるよ。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++












異質であることを、聖なる証とするか、それとも憎悪し排斥するかは、その社会の文脈による。
そして、未曾有の危機の中で人々は、“偶像”を欲した。


五年前、ダークサイドの地球侵略を退けた“ヒーロー達”を、人々は両手を広げて迎え入れ、
その称賛はすぐさま世界的な熱狂の域に達した。
彼等こそ現代の聖人。
その手に宿る奇跡と、清廉な意志で正義を行うのだと。
人々は、“希望”を求めていた。
今や地球は人類の安らかな揺籃ではなく、宇宙には、地球人など易々と駆逐する文明が存在し、
それに見合う“悪意”も潜んでいるという事実に、人々は怯えた。
しかし、この地球という小さな惑星は、他に類を見ない多様性に富む反面、
そこに内包する非合理により、統一的な意志決定すら著しく困難なのだ。
(所謂政治というものに倦むことなど珍しくもない人類史。)


“ジャスティスリーグ”は、混乱と恐慌の最中、人々の前に降り立った。
その輝かしさを、人は仰ぐ。
盲者が光を乞うような羨望と、
一片の、拭い難い恐怖と。





だが、そんなことはハルにとって、まったく、どうでも、よかった。





彼に言わせれば、ジャスティスリーグというものは、偶然同じ顔ぶれが一、二度居合わせただけの話であって、
それをどうして友情だ同志だなどと一括りにお仲間扱いされるのか、まず分からない。
だいたい、ハルはグリーンランタンだ。
無辺無窮の宇宙をたった3600のセクターに分割した一つを、そこに含まれる地球ごと任されているのだ。
ハルは、誰の手も必要ない。
連中と群れる気もない。






そして
夾竹桃と百日紅の木陰から
したたたた と
猫の駆けぬける昼下がり。
見知らぬような街の、閑散とした通りを
ハルは一人、どこへ向かうでもなく
歩いている。


引っ越したのが二ヶ月前。
自室で眠った回数、片手で数える程度。
床には、まだ中を開けてないダンボール箱が乱雑に置かれ、
どうせ数日も経たずに家を空けるのだと思うと、そのままの方が面倒がない。

昨日どこにいて、明日はどこにいるのか。
光の速さで一億年の彼方。

宇宙には、慣れてしまえば地球より過ごしやすい星はあるし、
人体に有害でない限り、口に入れられる物は何でも食べる。
中にはとても言い表せない味に遭遇することもあるが、それが意外とくせになる、こともなくはない。
特にこだわりはないのだ。
胃袋が満たされるのなら。


それでも、不思議と。
この星の、この国の、どこの街にもあるような
味より量が売りのダイナーで。
ぼんやり昼メシを食いたい日もある。





ふいっと、三毛猫のしっぽが、赤いゼラニウムの鉢植えを曲がる。
それを目に留めたわけでもないが、ハルは同じ角を曲がり、こぢんまりした店を見つけた。

古びたカウンターと、並んだテーブルに、客の姿はない。
奥の席に落ち着いて、のっそりと注文を取りに来た店員を相手にビールを選ぶ。
そのうち、客が一人、入ってきた。
ハルは多くもないメニューからミートボールのスパゲッティを頼む。
店員はまたのっそりカウンターの方に歩いていき、後から来た客に、愛想の良い笑みを向ける。
物静かな声が、コーヒーを頼んだ。


けれど、ハルが眺めていたのは。
南東の窓の向う。
曇りのない、果てのない青空。
一瞬、高度70000m、幻の銀翼が鼓膜を振るわせ

気が付くと、誰かが自分の前にいる。

最初に目に入ったのは、テーブルに軽くついた、男の手だ。
長い指と、形の良い爪。 無音の所作にどこか品がある。
しかし、ハルは首の後ろがちりりとするのを感じた。
その拳は、人を殴るのに慣れている。

顔を上げると、見覚えのないような男が一人。
少し遅れてやってきた友人のように、さりげなくハルの前に座る。

年齢はハルと同じか、少し上か。
黒髪に、整った顔立ち。
ビールとコーヒーを運んできた店員に礼を言う声は、柔らかく、聞き心地が良い。
だが、男はハルの友人ではない。
この街に彼の知人はなく、彼がこの街にいることも、誰も知らない。
引っ越したことはバリーに話したかもしれないが、住所はどうだったろう。

店員が、テーブルから離れていく。
ハルの前にいる男は、黙って彼を見ている。
口許に浮かぶ柔和さが幻のように消え去り、ハルを真っ直ぐに射貫く、藍色の両眼。
星の凍てつくようなその光を、前に一度、目にしたことがある。

「なんでここが分かった」

ハルは顔を顰めて相手を睨んだ。
すると、男は僅かに片眉を上げ、面白くもなさそうに、

「格別難しいことでない。 注意力のある人間なら誰でも調べられるだろう。
 マスクで顔が隠れていると思っているのだろうが、もう少し気を配ったらどうだ、Mr.ジョーダン」

ハルはグラスのビールを一気に飲み干し、
その瞳に、簡潔に一言。

「ビッチ」






メトロポリスに宇宙人がいて、ワシントンに神話の島からやってきた王女がいるのなら、
ゴッサムシティに吸血鬼ぐらいいても、おかしくはないだろう。
ハルは、その程度にしか考えてなかった。
実際に自分が遭遇するまでは。

けれど、“バットマン”は、怪物でも亡霊でもない。
そんな尋常なもんじゃない。
ただの生身の人間のくせに、異界の悪神と対峙する一面焦土の爆心地に立ち、
自分一人だけお利口さんみたいな澄ました顔で、グリーンランタンよりも無謀なことをしでかす、
正真正銘の、大馬鹿野郎だ。

死にたがり、というよりは、
頭のネジが大真面目に緩んでる。

そのくせ、いやに鋭くて。
勝手に他人の素性を調べ上げてたりする。
腹が立つ。




ハルがバットマンと同じ事件に関わったのは二度。
二度が両方とも、地球侵略だ。
なのに、穏やかな昼下がりの、平凡なダイナー。
あの真っ黒い格好でなく、こざっぱりと青いシャツを着ているクソ蝙蝠は、
どこからどう見ても、普通の一般市民で。
変な奴、とハルは思う。



「三度目、あると思ってんのか」

ハルは背凭れにふんぞり返ると、足を組む。
冷めた色の瞳は彼を端然と見返し、

「無いと言い切る根拠が無い。 ああいうものがどれほどの頻度で地球に出現し得るのか、
 私よりもグリーンランタンの方が承知しているはずだが」
「バーカ、確率がどうだろうが出てきたらブン殴るだけだろ」
「それはそうだ」


文明を崩壊させる規模の災厄に、立て続けに二度襲われた惑星が、
三度目の大災害に見舞われる可能性は何パーセントほどか。
答えは、0ではないが、1よりも低い。
何故なら、そんな災厄に二度も襲われたなら、惑星自体が宇宙から消滅する場合が多いからだ。
ハルは、それを教えてやろうとは思わないが。


「ジャスティスリーグ、ねェ」

気が乗らない、という風に、ハルはカウンターでフットボールを見ている店員にビールを頼む。
ついでに、クランベリーパイも。

「俺、一人の方が好きにやれるし楽なんですけどー」


まず、ダークサイドの事件に関わったのが、ただのなりゆきだ。
他の六人と協力したのも、望んでそうなったわけでない。
ハルは、お人よしの親友とは違う。
言ってみれば、他の連中は得体の知れない奴等ばかりであって、
簡単に信用できないし、する気もない。


「私も積極的に関わり合いたいとは思わない」


淡々と、ゴッサムシティのヴィジランテは答える。
しかし、それは同意ではないとハルには伝わる。


「でも?」
「必要ではある」


運ばれてきた二杯目のビールと、向かいに座っている無表情。
窓の外の通りは、日差しが暖かい。 軒先に赤い花が咲いている。


「飲めよ。 俺は今日休みだ、少しぐらい付き合え」
「アルコールは摂取しない」
「ああ、飲めない」
「飲まない」


表情は動かさず、きっぱりと言う。
ハルはグラスを口に運びながら、やっぱり変な奴、と思った。
ビールどころかコーヒーのカップにも指一本触れてない。
こいつ普段何食ってんだ。 というか何か食うの?


「正直なところ、」
「ん?」
「クリプトニアンやアマゾンの王女、そして、凡そ合理性の欠片もないグリーンランタン、
 そういった存在と一緒に行動したくはないし、そんな事態に巻き込まれたくもない。
 私は、彼等とは違う」


ハルは黙って、その瞳を見返した。
何の特別な力も与えられていない、ただの人間の、凛とした藍色。


「だが、もしも前回のような事態が再び起こり、人類が甚大な被害をこうむる可能性が少しでもあるのなら、
 私は傍観者としてそれを待つ気はない。 取り得る限りの全ての手段を講ずる。
 ジャスティスリーグの存在意義は、そこにある」


ハルには、心に閉じ込めた、一つの鮮烈な情景がある。
灰燼で暗く覆われた空の下、同じ色の瞳が、同じ声で、あの時何を教えたのか。
それはハルの秘密だ。


「……私達は全く違う事情を抱えた個人だ。 思考も優先事項も異なる」
「別に友達じゃあないし」
「はっきり言って、私はお前が嫌いだ、ハル」
「気が合うなァ」


一瞬、取り澄ましたその顔が、微笑ったように思えた。
いや、笑ったのはハルの方だったのかもしれない。
眠たいような平和な午後、ハルを見据える眼差しは、真冬の月のように冴々と貫く。


「共有するのは、一つの目的だけで良い。
 だが、それが遂行出来るなら、私は自分を惜しむつもりはない」


そこで、唇を自然に噤んだ。
張りつめていた空気がふっと弛む。
ハルが向こうに目をやると、店員が料理を運んでくる姿が見えた。
目の前の男は、陽だまりの猫のように素知らぬ顔で、窓の向こうを眺めている。


「で、他の連中は? どーせYesなんだろ?」


湯気の立つスパゲッティに、クランベリーパイがテーブルに並ぶ。
ハルはさっそくフォークをミートボールに突き立てる。


「なんで俺が最後。 俺とおまえの仲でそれはちょっとツレないんじゃねーの」
「お前はこの星にいなかった」
「そう、俺とっても忙しい」


明日どころか一時間後だって、どこでどうなってるか自分でも分からない。
宇宙は、途方もなく広い。
けれど、口いっぱいに頬張ったスパゲッティ。
咀嚼し、飲み込んで、ビールで流し込むと、また口の中を満杯にする前に、


「でもまあ、来れる日は行くから、呼べよ」


藍色の瞳はちらりとハルを流し見、溜め息を一つ。


「……気が進まない……」
「うん? 嬉しーだろ、もっと喜んでいいんだぞ」
「信条に反する」


ハルはにんまりして、クランベリーパイの皿を向こうにやった。


「それ、おまえのだから」
「何故」
「嫌なんだよ、俺だけ食ってんのが」


言い切って、ハルは食欲を満たすという大事な仕事に戻る。
しばらくして、つまらなそうに外を眺めていた奴が、仏頂面のままフォークを手に取り、
パイの端っこの方をほんの少し、口にした。
それが、眉を顰め、何か苦いものでも口に含んだような顔をするので、
そんなに不味いのかとハルも食べてみたら、ごくごく普通の、家庭的な味だった。


「変な奴」


けれど、ビールもコーヒーも飲まないくせに、パイは食べる。
妙な蝙蝠だ。
ハルは、ちょっと笑った。

結局、世にも無愛想な友人はあと一口だけ菓子を食し、
その間にハルはスパゲッティを綺麗に平らげ、ついでにパイの残りも美味しくいただいた。
二軒目に誘うとすげなく断られ、以降五年経っても成功してない。



五年前と、五年後。
相変わらずハルは宇宙にいる時間の方が長く、
地球は、どちらかというと、休暇で実家に戻ってきたような気分になる。
もちろん、休暇中でも事件は起こるのだが。
少なくとも、退屈はしない。
五年前と、五年後。
ブルースは相変わらず、不機嫌面をしている。












****



ジム・ジョーダンの二人の子供達は、たまに顔を見せてくれる伯父さんのことが大好きで、
遊び疲れて眠ってしまうまで伯父さんの傍から離れない。
その二人がキッチンでおやつを食べている間に、ジムは兄がそっと玄関に向かうのに気づいた。

「悪い、もう行くわ」

小声で謝る兄に、ジムも慣れているので、

「いいよ、“仕事”でしょ?」

兄の仕事は宇宙の平和を守ることです、と言える弟もあまりいないだろう。
しかし、兄は何故だか面白そうに笑った。


「いいや、ラブコール」
















++++++++++++++++++++++++++++++++


そういうノリだからWWに凹られると思うの。 そんなVILLAIN'S JOURNEY
newな52のJLのおハルさんの五年後現在が、まったくもって蝙蝠にちょっかい出したがりで、いったいどういうことだか説明してもらいたい。
五年前と五年後の違いは、おハルさんの態度かと。 五年後は、これ明らかにこの人楽しんでるわーと思う。
つか、おハルさんがJLにいる主な理由が、蝙蝠がいるからとかそんなんでもういいじゃない。
いや、うん、わりと普通にお友達だと思いますこの二人。
悪態とツッコミがデフォという類の。 お互い相手と逆のことしかしないの。 それをお互い分かってる。
↑で、ぼっさまが、ハル、って言ってるけど、その後五年間ずっとランタンでいいです。
ダークサイド戦の直後にスターロ戦がありそう、と思って書いてましたけど、実際のとこ知りませんよ。





もどる→