『BATMAN : THE RETURN OF BRUCE WAYNE』 


WRITER : GRANT MORRISON
ARTIST : CHRIS SPROUSE / FRAZER IRVING / YANICK PAQUETTE / GEORGES JEANTY / RYAN SOOK / LEE GARBETT

出版:2011年
掲載:THE RETURN OF BRUCE WAYNE #1-6(2010年)




【大まかすぎる概略】

『FINAL CRISIS』でダークサイドに殺されたと思われたバットマンは、ダークサイドのオメガサンクションによって"過去"に飛ばされていた。
記憶を奪われたブルースは自分が誰かも分からないまま、彼の本来の場所である"現在"に戻ろうとする。
しかし、ダークサイドの本当の目的は何だったのか。
果たしてバットマンは世界を救うために帰還するのか。 それとも彼こそが世界を終わらせるのか。
バットマンの最後の、そして始まりの物語。

……んまあ、ブルースが先史時代からピューリタン、パイレーツ等々様々な時代で大冒険する話、と思っても間違いではないのでしょう。
記憶がなくても通常運転!
表紙から目立ってる巨大蝙蝠は、そんな生物ホントにいたのかよ!と疑問に思うかもしれませんが、大活躍します。





【つれづれ雑感】

やー、読み応えたっぷりッ。
えーと、モリソンさんの本というのはゴチャゴチャ言わずに読めばいいじゃない! という面があるので感想が書きにくいのです。
『FINAL CRISIS』『BATMAN : TIME AND THE BATMAN』『BATMAN&ROBIN』の内容が絡んでくるのはもちろん、
過去に飛ばされたおかげで、ウェイン家の祖先や、Anthro、Black Pilate、Jonah Hex等々DCの昔からのキャラも。
そういう部分については、日本でも『THE DC CIMICS ENCYCLOPEDIA』が翻訳される予定ですし、
蝙蝠関係については『THE ESSENTIAL BATMAN ENCYCLOPEDIA』もありますし、時間のあるときにでも読んでみると、
げェー! と思ったりするかもです。
私、そんな細かいとこまで読んでないですが。
モリソンさんの恐ろしいところは、元ネタがあることだなーとしみじみ思います。

ちなみに、『THE ESSENTIAL BATMAN ENCYCLOPEDIA』は、
バットマンやゴッサムに限らずDCUに広く触れ、たとえばグリーンランタンならアランはもちろんおハルさんの項もあるのです。
『THE DC CIMICS ENCYCLOPEDIA』よりも細かく書かれてますし、これを読んでるだけでも面白いです。
カラーじゃないよ。


で、『THE RETURN OF BRUCE WAYNE』。
この本は何の話なんだろうと考えると、『FINAL CRISIS』と同じで、神と対峙する人間の物語なんですが。
神というか、絶対悪、その根源。
だから、FCもRoBWも、構図としては真っ向から王道。 神話の中に既に見られる原始的な物語。
これだけ色んな要素、色んな物語が本の中に詰め込まれているにも関わらず、核となる物語が一貫してそれであることが、
しみじみ面白いなあと思うわけです。

そして、バットマンとは何であるかの物語でもあり、それがとても面白かった。
ブルース・ウェインがどういう人間か、の物語でもありまして。
えーと、作中のブルースは記憶を奪われてるのですが、どの時代でも特に問題なく 通常運転!
なんだろう、この人……。
自分がバットマンじゃなくても、どの時代にいても、子供は守るし、悪い奴は追い詰めるし、罠は回避するし、探偵さんだし、
そしてやることがとんでもない。
だから、この本の6話のうち5話までは、毎回風味の違う冒険活劇集だとでも思って読めるのです。
個人的には、2話のピューリタン時代と、5話のBlack Gloveが出てくるノワール物が好きです。
特に2話。
ゴッサム住民から魔女と忌まれているアニーと、ウィッチハンターのモーデカイの物語が良かった。
そりゃあ恋にも落ちるよ!
だからこそ、その結末が。

ところで。
この2話あたりから、にょろっしたアレが姿を現すんですが。
えーと、『TIME AND THE BATMAN』で、ニューゴッツのステキなお道具、Ancestor-Boxがぱっくり開いて、
現れたハイパーアダプター(にょろにょろしてる。キバがある。変形もできる)が、この本でブルースに憑いているモノで。
そして、ベルを奏でるモノ。
ダークサイドらニューゴッツ同様、"生ける概念"で、その意義は、バットマンと世界を破壊すること。
こいつ、2話でにょにょにょっと姿を現すのですよ。
なんでかな、と考えて、あれはアニーがゴッサムを呪ったせいなのかと。
その呪いに形を成すためなのか、それが呪いだったせいか。
とにかく、ハイパーアダプターという存在にとって、アニーの願望は適合していた。
アニーの望みどおり、ウェイン家は時の終わりまで呪われた。
時の終る果てに行き着いた、呪われたウェインは、つまり、彼女の愛した人なわけですが。
ぅおお……。
そういう"物語"を生成するのが、ハイパーアダプターの役割だった、ということで良いんですかね。
バットマンが世界を終わらせる、という"物語"。
そして、そのハイパーアダプターは、ブルースに憑いている。
ブルースを核にし、物語は作られていく。

ブルースを各時代に飛ばしていたのはオメガなんとかつーもんですが。
無作為に時代と場所を選んでるのではなく、常にゴッサムが舞台になるのは、そこがバットマンと深く関わっているから。
そして、それぞれの時代で、ブルース/ハイパーアダプターは、物語を作っていく。
あるいは、ハイパーアダプター/ブルースが、その時代と場所をバットマンと深く結び付けていくのか。
時代が変わるごとにブルースが記憶を失うのは、時代ごとに立場の違う役を演じるから。
けれど、演じる役はいつも主役。 いつだって絶体絶命。
これは彼の物語。

その物語について、ちょっと自分のためにメモしていきますと、

1話では、まだゴッサムという名前はないけれど、

   「They say when shining ones come again, it's the ALL-OVER.」

  というように、ここで既にALL-OVERと言われているのが、面白い。
  そして、この時点から日食と蝙蝠神の物語は創られ始め、ブルースを助けた少年の子孫であるMiagani族の伝説になる。

2話、ブルースの日記がVan Derm家に託される。 後に、Miagani族の口笛を知らなければ開けられない箱の中に。
   Van DermとMiaganiという、要素と要素を引き合わせて一つの物語にしていくのが、ハイパーアダプター/ブルースの作用なんだと思う。
   洞窟の壁画がアニーのネックレスに。

3話、ゴッサムのカタコンベに隠されているという財宝の伝説。
    Miagani族の守る財宝は、1話と2話で洞窟に残されたバットマンのコスチューム。

   「As long as it never leaves this place, they say it holds back the terrible day... the "ALL-OVER".」

   ALL-OVERは終末の意味、ここでは。
   the terrible dayとまで言われてる、それがハイパーアダプターの織り成そうとする物語の結末。
   終わりをもたらすのは、そのケープの持ち主。


4話、Dr.ハートがバルバトスの箱を開けようとする。
   箱を開ければALL-OVER。
   蝙蝠神であるバルバトスは現れ、箱の中には永遠の命を得る秘密があるという。
   Dr.ハートは、過去にバルバトスと遭遇し、汚染された彼は永遠?かは分からないが長生きな何かに。
   そのあたりの話は『BATMAN&ROBIN : BATMAN&ROBIN MUST DIE!』にありますが、
   元ネタはBATMAN#452-454『BATMAN : DARK KNIGHT, DARK CITY』のバルバトス召喚。
   召喚しようとしたからハイパーアダプターが現れたんだと思う。
   アニーのとき同様、物語に組み込むために。
   ところで、召喚するためにはそもそもバルバトスという"概念"あるいは"物語"が既に存在しなきゃいけませんが、
   そんなものは1話目から既に創造済み。抜かりなし。

   この時点でVan Derm家に伝わっている真珠が、1話目に出てきたあれだとすれば、
   Van Derm家はMiagani族と血が繋がっており、しかも重要な存在だったはず。 それは3話の箱の存在でも明らかだけれども。
   そうさせている根本は、ブルース/ハイパーアダプター。
   Van Derm家はウェイン家と婚姻し、後々はブルースが生まれるんだから、ブルースは自分自身も作っちゃいましたね、という。

   Van Derm家と、Miagani族の役割は、ブルースに彼自身を思い出させること、箱を守ること、その器であるウェイン邸を造ること。
   だと思うのですが。
   そもそも物語の開始がウン万年前のことで、そんな昔から脈々とブルース(バルバトス)に纏わる伝説が受け継がれてきたのは、
   やっぱりハイパーアダプターの作用だと思うのですよ。
   でも、そうするとハイパーアダプターのくせに、ブルースに協力するのはどうなんだ、ということになりますが。
   ハイパーアダプターって、アホなんじゃないかな……。
   アホというか、こいつに課せられているのは、世界の終末の物語を作ることで、その核にバットマンを据えること。
   そのためにブルースに憑いてるから、ブルースの行動が物語化されて残るのは、自動的な、不可避の作用なのかなあと思いました。
   呼ばれてホイホイ出てくるあたり、結構自動的に反応してるんじゃないか。


5話、またまたDr.ハート。
  ジョー・チルを雇ってウェイン夫妻を殺害し、そのことによってバットマンが誕生し、
  そのバットマン/ハイパーアダプターがDr.ハートを作ったんだと思うと、もうぐるんぐるん。
  このDr.ハートのウェイン家への固執と、箱を開けてバルバトスを召喚することに拘るのは、
  このおっさんの中にハイパーアダプターが混じってるせいだと思う。
  だから、バットマンに関わるものに、深く執着する。 それを破壊しようとする。
  ところで、黒ミサのシーンでおっさんがニコルス博士に言った台詞が、

  「Open the hole in time, carter, and make history.」

  時間に穴開けちゃいな、ってそりゃまた。
  んでニコルス博士のタイムボックスはどこにブルースを届けたかと言うと、時間の終わり Vanishing Point、だったんだから。
  だから、ハイパーアダプターの作り出す物語の、世界の終わりは、時間の終わり、なんじゃないかと思ったのです。
  ニコルス博士は『TIME AND THE BATMAN』でも登場。


6話、そしてALL-OVER。
  現代に帰ってきたバットマンはまた(自分から)記憶を失ってるわけですが、これそのまま野放しにしてたら危険だったんじゃないか。
  立ち塞がる者は(本能的に)打ち負かそうとするし。 なんか無敵状態だし、JLoAその他メンバーは歯が立たないし。
  しかし、ゴリラさんに言った台詞が「likewise」なあたり、やっぱり通常運転のような気も。
  が、最終的には完全にハイパーアダプターに感染。
  そして、世界の終わり。
  時間はバラバラに歪み、過去現在未来あらゆる時間は一つに。
  一つになるということは、時間が終わるということで、即ち熱量0になった宇宙の終わり到来、と思うと、危険。
  これが、ハイパーアダプターの描く物語の、結末。
  バットマンは世界に終わりをもたらした。 ALL-OVER。
  そんなこと出来るなら最初からすればいいじゃない! とも思うわけですが。
  それをバットマンにさせる、というのがハイパーアダプターの主眼であり、
  現代という時間をピンポイントで狙って事態を引き起こすのがダークサイドの狙いであって、
  あと、ブルースが完全に感染するまでに時間がかかったんだよ、とか、そこまでパのワー蓄えるのに時間が必要なんだよ、とか思っておく。

  が、最後の最後、物語は反転する。
  ハイパーアダプターは、世界を終わらせるために、バットマンを作った。 (あるいは、そのように彼の物語を定義した。)
  呪われた物語が、死と暗黒と恐怖と孤独から産み落とした、何者にも止め得ぬモノ。 それがバットマン。
  けれど、ブルースは最後に、その物語の構造を自ら変える。
  鳴り響くベルは、終末を告げる鐘ではなく、信頼するアルフレッドに助けを求めるベルの音になる。
  ハイパーアダプターの物語は反転され、時間の歪みは正され、大団円、ALL-OVER。

  本当は何がバットマンを生み出したのか、については、もし読んでない方がいたら是非御自分で確かめていただきたい。
  私は、じーんとしました。
  これは本当に、バットマンの物語でした。



メモと言いつつ長くなりました。
相変わらず好きなよーに読んでるので、ここ違うぞというのが教えてください。
細かいとこ見ていけば、気になるとこはもっといっぱいあるんですよ! 書いていくとキリがない。
だから、面白かった。
6話のティムとWWとか、役に立ってるのか微妙なTIME MASTERS四人とか。(ちゃんと役に立ったよ!)
ティムの「僕がパパの保護者ですが何か問題でも?」な態度がすごく好きなのです。
ハンター・ブースター・超人・ハルの四人については、別に『TIME MASTERS : VANISHING POINT』があるからいいじゃない!
あの本を勘定に入れて考えると全てが分からなくなるけど! 楽しけりゃいいじゃない!
どちらも超人が妙に面白い。
おかしいな、あれ真剣なんだぜ。
おハルはブースターをいじめては怒られてました。 おもろい人たちや。
ブルースぼっさまはそこらへんもまるっと含めて「My friends」と言っておりましたが、都合良く使ってるだけだろ! わかってンだぞッ
比較して、WWは、かっこいい役だった。
『FINAL CRISIS』でWWを活躍させられなくてゴメンね、ということですか。
最後の水のとこは、仮死状態にすることでオメガなんとかを離れさせた、ということでいいのかな。
頼りになるよWW! お姫様抱っこぐらい楽々だよWW!
かぁっこいいー!

あと、1話で記憶のないブルースが『FINAL CRISIS』の最後のロケットを開けたあたり、滅多にない行動をしてくれましたが、
あれは、友達だった記憶なのか、遭難者のSOSなのか。 とりあえず台詞の部分邪魔!



しかし、まとめる気がなくて申し訳ない。
いっぱいあるんだ!





(2011年5月)

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