『BATMAN & ROBIN : BATMAN vs ROBIN』 


WRITER : GRANT MORRISON
ARTIST : CAMERON STEWART / ANDY CLARKE

出版:2010年
掲載:BATMAN & ROBIN #7-12(2010年)




【大まかすぎる粗筋をちょっとだけ】

-- BLACKEST KNIGHT --
バットマン(ディック)は、ロンドンで対立しあうギャングの命を懸けたゲームに割って入る。
しかし、それがバットマンの目的ではなく、彼は"ある物"を求めてロンドンを訪れていた。
刑務所でギャングのボスと会ったディックは、求めるものの存在を確信し、閉山された炭鉱の奥を目指す。
そこには棺の中に入れられたバットウーマンの姿があった。
彼女はReligion of Crimeを信奉する犯罪組織のネットワークを辿り、ゴッサムからロンドンに来ていた。
バットウーマンの追う一団は、"予言"に従っていた。
それは、冬至の日この場所で、Knight of Beastが甦るというものだった。
そのための生贄として連れてこられた彼女は、ディックに警告する。
だがディックは既に、炭鉱の奥に隠されていたラザルスピットに、"バットマン"の死体を入れた後だった。
ピットの力によって甦った"それ"は、しかし、ディックの信じたものではなかった。
それはディック達に襲い掛かり、彼等が落盤に巻き込まれた間に解き放たれ、ゴッサムシティを目指す。
ゴッサムのウェインタワーには、脊椎を入れ替える手術をしたばかりのダミアンと、アルフレッドしかいなかった……。



-- BATMAN VS. ROBIN --
ダミアン役員会デビュー。 不正について財務のおっさんをソフトに脅す。
ディックは、イギリスの作家で私立探偵のOberon Sextonと、ドミノキラーによる連続殺人事件について話す。
Sextonは次に狙われる人物はブルース・ウェインだろうと考えていた。
ディックとダミアンは、アルフレッドからの連絡でウェイン邸に戻る。
アルフレッドは、"もしもブルースが過去に飛ばされてしまったのなら、きっとこの屋敷にその証を残すだろう"と考えていた。
三人は、ウェイン家の歴史と屋敷を調べる。
ディックは、ブルースが生きている可能性を喜んでいた。
だが、ダミアンは不安だった。
母親と決別してロビンであることを選んだが、ブルースが帰ってくることは、ダミアンの今いる場所を変えてしまうかもしれなかった。
肖像画の謎を解いたディックは、図書室で秘密の通路を見つける。
さらに先へ進もうと床を調べるディックの後ろで、ダミアンが剣を振り上げた。
ダミアンの身体は脊椎を通じて遠隔操作されていた……。




【つれづれ雑感】

BLACKEST KNIGHTからいきますー。
名前からしてとってもゾンビ。
というのは、これがDCUのクロスオーバーイベント『BLACKEST NIGHT』と同時だったからですね。
1巻の初めのほうで墓地のシーンがありましたが、それなのに"バットマン"の死体が何故ウェインタワーに保管されてたかってーと、
『BLACKEST NIGHT』で盗難事件にあった挙句ゾンビにされたせいでしょう。 で、その後返却されたと。
しかし、そんなもんラザルスピットに突っ込むのはどうかと思う。
と、考えるのは他人事だからでしょうか。

さて。
私はずっと1巻の終わりの話と2巻の始まりは時間的空白がないと思ってたんですが。
違ったんですね。 ディックの格好も違いますし。
というのは、ロンドンにラザルスピットが残っていることをディックがいつ知ったのか、気になっていたからでして。
ディックは、ブルースを甦らせることに関しては、

「If that had been his body... and we all thought it was... If there was even a cance of bringing that man back...」
「I owed it to the world to try.」

とまで言ってまして。
もし使用可能なピットがあったら、そりゃあもう最優先で突っ込む気満々ですね。
あ、『BATMAN : THE RESURRECTION OF RA'S AL GHUL』についての言及ありました。
あっちだと、ディックはティムがドレイクパパを復活させるのを止めたんですよね。
ディック曰く、それとこれは違うのだそうです。 開き直る程どんだけ自分のパパを愛してるの……ッ!
ということで。
にもかかわらず、何故ディックがピットを使ったのがこの2巻だったのか、気になったのです。
が、しかし、ディックは最初は、ラザルスピットを使う気ではなかったと思いたい。
初めからピットを使う気なら、死体を墓地に埋葬する必要はないわけで。
それに、1巻でジェイソンが、タリアならピットを探せるはずとか言ってましたが、仮にそうだとしても、彼女はディックには教えないと思う。
この本、タリアのディックに対する言い方が酷ェ!
なわけで、1巻の時点ではピットの存在を知らなかったと思いたい。

ここでちょっと『BLACKEST NIGHT』に触れておきますと。
あれのラストで、ゾンビ状態でなく本当に復活した人々もいるわけで、それを考えるとディックの心中は穏やかでないと思う。
なんであの人達は復活したのにうちのパパは……という。

で、今回の2巻ですが。
そもそも、ディックがロンドンに死体を運んだその日がちょうど冬至で、
全部何もかもReligion of Crimeの予言どおりなんだぜーてのが、都合良過ぎる。
ので。
やっぱりあれもこれも仕組まれてたんだなあということでよろしいのか。
えげれすのおっちゃん二人、Pearly KingとKing Coal。 白と黒の王様というとチェスを思うわけですが。
まず、King Coal。
地下鉄使ってロンドン吹っ飛ばそうとした方。
生贄の用意も万全で、「We've two Bats for the price of one」
つまり、ディックがラザルスピットに入れようとしているのが、バットマン(と思われているもの)の死体ということも知っている。
さらに、「The beast is loose, the new age of crime has come and, the broon's on me!」
ピットから甦るモノがまともなバットマンではないことも知っている。
それが解き放たれることこそKing Coalの目的。
だから、Coalはラザルスピットのある炭鉱を手に入れることで、ディックをロンドンに誘い出したのかなあと思うのですが。
騒動が起こればディックの目に留まりやすくなるし、何故その場所を巡って争いが?という疑問に通じる。
もしそこにラザルスピットの存在する可能性を示唆するものがあれば、必ずディックは確かめようとするでしょう。
で、Pearly King。
親切にもディックが来る前からドミノで炭坑の地図を作ってるし、指で道順も教えてくれる。
ディックが息子の命を救ってくれたとはいえ、親切過ぎやしないかとも思う。
ピットがKing Coalの手元にあるよりはマシと思ったのかもしれないけど、真意が良く分からない。 息子はいい人そうだけど。 顔が。
(ちなみにCauldron of rebirthはモリソンさんの『SEVEN SOLDIERS OF VICTORY』にも登場)
(あっちはピットじゃありませんでしたけど)

そして、ディックはラザルスピットを使ってしまう。
でも甦ったのは、『FINAL CRISIS』で大量生産されていたブルースのコピーだった。(コピーについての具体的な描写は『R.I.P』)
ところで。
その事実を知ってた人は限定されていて、じゃあReligion of Crimeて何なのさ、というと。
ダークサイド様がどうしても関わってきそうなもんなんですが、わからん。
そこらへんについては他に読んでみた本があるので、まだ。
ただ、「the rise of a black messiah at the dawn of the age of crime」というのは別の本でも見た表現なので、反復されるテーマなのかも。

結局、そのおかげで本物のブルースがどこかで生きてるかもしれない可能性が出てくるわけですが。
ディックがラザルスピットを使ってまでブルースを甦らせたかったのは、
タリアやジェイソンが言うように、ディックがバットマンとして力不足なのではなく、
(ティック自身、これが済んだらピクシーブーツに戻りますとかナイトウィングに戻りますとか散々言ってるけど)
ひとえに愛と責任なんでしょう。 すげェ!
もっかい引用しときましょう。
「I owed it to the world to try.」
せ、世界があなたに託した重要な義務なのか……そりゃ頑張らないとな! うっかり色んな被害出たけど結果良ければ全て良しだ!
もうね、ここ以外でも自分がブルースを助け出して当然という主張があちらこちらに。
最初のロビンってこういうことなんだなあと思いました。

ちっとも触れてませんが、KIGHT&SQUIREもバットウーマンも頑張りました。
ディックが赤毛が好きなんだよねーって言ってた。

そういえば。
あと一つはっきりしないのが、ラザルスピットを使って出てきたコピーが、最終的に腐り落ちたことなんですが。
ディック曰く、ピットの影響ではないそうで。
そうすると、『BLACKEST NIGHT』で使われたせいかなあと、とも思ってみたり。 良く分かりません。
コピーがダミアンのDNAテストについて何か言ってましたけど、そっちも断言できるものがない。

……ちなみに。
『BLACKEST NIGHT』の最後でおハルさんが、あのゾンビはブルースじゃなかったとか言ってるんですが。
分かってたのならそれをディックに教えてあげれば良かったじゃない……ッ!
というのは全部、出版順序の関係上それを言うとネタバレになったせいですが。



で、BATMAN VS. ROBIN
一巻から通して読むとものすごく感じるのですが、ディックが終始うきうきです。
テンション低いダミアンから「You're a freak.」と言われつつ、楽しそーに謎解きして屋敷探検。
というか、どちらかというと、ブルースが生きているかもと思って、安定したのかもしれない。
いきなりダミアンがおかしくなっても穴に落っこちても、冷静だったのよね反応が。

謎解きに出てきた肖像画や秘密の部屋、奪われちゃったcasket、謎の巨大蝙蝠等々は、
後の「THE RETURN OF BRUCE WAYNE」に関わってくるわけですが。
ただ、家長の肖像画にヒントが隠されているあたり、ブルースの父親であるトーマス・ウェインも何かを知っていたんでしょうかね。
家長から家長へ伝える秘密のようなものがあったとしてもおかしくなさそう。
ただ、ウェイン夫妻はブルースが小さい頃に殺されてしまうわけですが。
そして、そんなウェイン家の屋敷に隠された秘密を、99fiendsを操るEL Penitent改めDr.Hurtは知っているのですよ。
もうね、背中にWの傷とかね、ド変態と罵りたくなるのはいつものことです。
帰れ! と言ってやりたいところですが、これで役者が揃ってまいりました。
あと一人、どうしたって外せないお方もこの巻の最後にやっと顔を見せてくれますよ。

しかし、ダミアンは。
『BATMAN AND SON』の時はただのクソガキぐらいにしか思わなかったのですが、成長しましたね。
でもAND SONの母子のやりとりが妙に面白かった。
この巻だと母親であるタリアに対してもダミアンは冷静なんですが。
でも、やっぱり母親に愛されたいっていう気持ちも本当。
それでも、自分の道を自分で選ぶ姿が良かった。
ダミアンは、AND SONの頃は三人で暮らせないの? とか言ってたんですよね……。
あの時はこの子がこんなことになるなんて全く思いませんでしたよ。
そういえば、ダミアンの声帯模写の話があって、ネタが細かいなあと思いました。 AND SONにあるのよ。

私は、このシリーズのタリアが結構好きなんですけどね。
姿勢が一貫していて。
ブルースのことを愛しているのも本当。 自分の息子であるダミアンが大事なのも本当。
タリアは、ブルースとなら一緒に世界(文字通りの世界)を分かち合いと思っている。(AND SONのプロポーズがすごい規模です)
けれど、彼は絶対にそれを受け入れないし死んでしまったので、息子に世界征服させます、という。
グレイソン? ああ、サーカスっ子ね。
……扱 い が 違 う!
だから、そもそもダミアンがゴッサムにいることをタリアが許していたのは、
遠からずダミアンが諸々の始末をつけてブルースが持っていた何もかもを手中にすると思ったからで。
そのために、ダミアンは育てられたんだから。
けど、なんでかディックのロビンに収まったまんま楽しくやってるし、お母さんは誤算でした。
そんなわけで背骨入れ替えー。
でしょうか。
ところで、あの10歳若いもう一人のダミアン。
既に結構な大きさなんですが、お母さんはそれをいつから準備していたんですか。
一日や二日じゃないぞッ!

ところで。
気になってたことがあったのですが、この巻でディックの胸にある蝙蝠が取れそうになったんですよ。
そこの部分は材質の違うプレートだよ、と1巻でジェイソンが言いつつ至近距離で銃ぶっ放して吹っ飛ばしましたが。
この巻でもまた。
シンボルが取れちゃうってのは、いったい何の暗示ですかね。
それと、ゾンビってるコピーがディックに向かって最後に言った、「I'm wot u」「 wot u」「will b.」
これが「I'm what you will be」なら。
ぶっちゃけ、おまえもじきに死ぬからねー、と言ってるように思えるのですが。
いやあ、不穏な流れになってまいりましたね。

ちなみに。
作中にあるMiagani族のお話は『BATMAN : CULT』のですね。 ジェイソンがとっても駒鳥。
で、悪魔召喚のお話は、Peter MilliganとKieron Dwyerの「Dark Knight/Dark City」(BATMAN#452-454) からだそうで。
こちらは未読。 TPB未収録ですが、そのうち入れてくれないかなあ。






(2010年12月)

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