『BATMAN BATTLE FOR THE COWL』


「BATTLE FOR THE COWL」
WRITER&PENCILER : TONY S.DANIEL

「GOTHAM GAZETTE」
WRITER : FABIAN NICIEZA
ART:   DUSTIN NGUYEN 他

出版:2009年
掲載:BATMAN BATTLE FOR THE COWL #1-3
    GOTHAM GAZETTE : BATMAN DEAD? & GOTHAM GAZETTE : BATMAN ALIVE? (2009年)






【おおまかなあらすじ】

ゴッサムシティからバットマンの姿が消えて暫く、街の誰もが彼の不在に気づいた頃、
事態は悪化する一方だった。
ギャング達はこの機会に勢力図を塗り替えようと抗争を始め、頂点ではペンギンとトゥーフェイスが覇権を争っていた。
ナイトウィング、ロビン達は事態を収拾しようとしたが、街の混乱は予想以上に酷く、長引いた。
そんな中、アーカム精神病院が爆破された。
そのアーカムへと移送される途中だった収容者達も、丸ごと姿を消した。
全てを画策したのはブラックマスク。 死んだと思われていたヴィランだった。

そんな時、ダミアンはナンパしたおねーちゃんと一緒にバットモービルでドライブ。
が、オラクル様にバレて怒られて、おねーちゃんは強制退場。
なんかぶちぶち言いつつダミアンがオラクルの指示に従おうとした時、
何者かの体当たりで吹っ飛ばされるバットモービル。
ダミアンが外に出てみると、そこにいたのはアーカムの常連さん、ポイズンアイビーとお肉大好きキラークロックだった。
あわや前菜の寿司ネタにされそうになった時、グライダーのナイトウィングに助けられる。
しかし、そのグライダーも地上からのロケットランチャーに撃墜され、廃ビルの中に突っ込む。
二人が気づくと、既にブラックマスクの部下が二人を取り囲んでいた。
だが、そこに突然現れ、全員を皆殺しにして二人を救ったのは、"バットマン"だった。

一方、ロビンはこの "バットマン"のことを既に調査していた。
バットマンの姿をしていながら、このクライムファイターは銃を使い、場合によっては躊躇いなく人を殺す。
そんなものがバットマンであるはずがなかった。
ティムは、バットケイブに保管してあるバットマンのスーツを一着借りた。
それは、ティムが初めて彼に会った頃と同じデザインのものだった。
ティムはそのスーツを着て、もう一人の "バットマン"の居場所を追った。
そしてゴッサムシティの地下で、彼のバットケイブを見つける。
その様子にティムは、"バットマン"がかつてのロビン、ジェイソンであると確信した……。






【つれづれ雑感】

↑で、だいたい#2の途中までです。
#1〜3まで雪崩のよーに話が進み、色んなキャラが顔を見せますが、
実質はディック・ジェイソン・ティム・ダミアンがほとんどですよ。
表紙にいるけど本編では1コマしかいないよ! とかそんなキャラもざらですのでお気をつけください。
タイトルが「BATTLE FOR THE COWL」で、要はディックがバットマンになるまでのお話なんですが、
ディックがバットマンになった、というより、ディックしか残らなかった、が正解かもしれません。
ついでに、この本からダミアンがロビンです。 何代目になる計算?

もう、見てるこちらも余裕がないんですが、キャラのほうも余裕がないですよ。 ない!
まあ一番キレてんのはジェイソンですけど!
この本の裏表紙に「今のゴッサムじゃサイコパスがバットマンを名乗っちゃってるんだぜー」的なことを書かれてるんですが、
そこまで言わなくてもいいじゃない! と思ったもんです。
が、#3までくると深刻に頭の心配をしたくなりました。
犯罪者を殺す、というのは『UNDER THE HOOD』からそうなんですが、
何というか、言ってることとやってることの整合性がおかしい。
ジェイソンはもともと複雑なキャラですけど、この本はそれ以上に、おかしい。

この本で彼がやりたかったことは、言ってみればブルース・ウェインのバットマンの全否定、だと思うんですが。
ジェイはディックに、
「Bruce Wayne is dead. But Batman didn't need to be. And you did nothing」
「you watched Gotham burn and collapse around you.」
「You buried Batman,dick... And I dug him out!」
とか言ってまして。
まあ、これ以外にもすごい自分勝手な見方をしてるんですよね。
バットマンのやり方は否定するのに、でもその存在がゴッサムから消えてしまうのも許せなくて。
バットマンは犯罪者に恐怖を与える影の存在であるべきで、ロビンなんかは間違いだった、とか思ってるくせに、
ティムにもディックにも、自分のロビンになれって声をかけるあたり。 おまえどんだけ寂しがり屋だ!
というか、あれはバットマンだからロビンがいなくちゃ、ということかもしれない。
どっちにしろ言ってることとやってること矛盾してますけどね。
彼のモノローグ、なんか何も見えてない感じがします。
ブルースが何故死んだか、について、彼が自分自身に課したモラルのせい、めいたこと言ってるんですけど。
これ、違いますし。
だいたい、たぶんジェイはブルースが何故死んだか知らないだろうし。
そこらへん正確に知ってる人間なんてあの世界にほとんどいないはずだと思うんですけど。
だから、ジェイの頭の中で、いい感じに色々捻じ曲がってるのかなあと。

ところで↑で、「You buried Batman,dick」と言ってるあたり、ディックがバットマンを継ぐんだとジェイも思ってたんでしょうか。

ちなみに。
ディック曰く、ジェイソンが今回ちょっと頭がおかしくなってるのは、ブルースの残した遺言が
ジェイソンの子供時代のトラウマを抉ったから、らしいんですが。
ジェイが遺言を見る話は『ROBIN : SEARCH FOR A HERO』の中にあります。
そちらでは遺言の内容を明らかにしませんでしたが、ジェイの様子は比較的大人しかったと思います。
んでもティムが、
「Jason's problem is that he hears, but he never listens...」
とか言ってるあたり、ジェイソンのこと良く分かってますね!
つか、基本的にティムはジェイに対して上から目線で、どきどきします。

遺言に話を戻しますと、そのトラウマが何かは結局分からなかったんですが、
そんなトラウマなくても充分、道を踏み外す要素がジェイにはあったようにも思います。
カウントダウンの方で見たくもないもの散々見たしね!
で、その遺言を端的にまとめると、「おまえは心が病んでるんだから、ちゃんと治療受けなさい」でしょうか。
これやっぱり酷いと思う……。
「Of all my failures, you have been my biggest.」とか自分の親に言われたら泣く!
えーっと、つまりジェイは心の傷ついた子供だったから、ブルースは彼のロビンにする代わりに、
本当に必要な治療を受けさせるべきだった、と言ってるんですけど。
そんなのが最後の言葉なんて、酷い!
たとえそれが愛から出た言葉でも、ジェイの一番欲しかった言葉じゃないと思いますよ……。
ジェイソンは結局、全ての始まりにロビンであったことがあるんだと思います。
だからそこを、彼をロビンにした本人に全否定されると、酷い。
ジェイソンは昔も今も自分のことをバットマンに証明したくて必死です。
結局、ジェイは遺言と真逆の極に行きました。
そんなとこもジェイソンかなあと思います。
不憫なのでお父さんは責任取って早く戻ってきてください。

ちなみに、アルフレッドへの遺言は『THE OUTSIDERS : THE DEEP』の中にあります。

さて、この話の中で余裕のないもう一人。
鬱々してるディックと比べて、わりと普段どおり冷静に見えたティムです。
パパといる時は良く出来た超かわういお子様、パパがいないところではこっちがビビるほどクールなロビン、
そしてパパとどっちが保護者なんだか分からん時もあるティミーですが。
あれはやっぱり、キレてたんですかね。
その、バットマンのスーツを着た誰かのことを
「wearing a replica of my father's suit and fighting crime.」
「You almost sound like Batman. But you're not. Nowhere close.」
と言ってて。
my fatherにきゅんとしたい、んですが、これやっぱり怒ってますよね、ティム。
それがジェイソンだと分かった時、
「My gut told me it was you. But I didn't want to believe it.」
「You of all people...taking the mantle? No,stealing it.」
よりによってジェイソンか、とか。
うん、たしかにティムはジェイソンに良い思い出あんまりないですけどね!
しかもstealingが強調されてました。 うん、怒ってる。 陰にこもる怒り方をしている。
挙句、ジェイソンをバールで殴る殴る。
ジェイソン、バールと来ると、近くにジョーカーと爆弾はありませんか? と探したくなる、そんなDeatn in the family。
ティムはそこらへん、知ってるんでしたっけ?

という、普段とは違うティムが見られました。
ティムは、『ROBIN : SEARCH FOR A HERO』では結構冷静だったんですが、
というか「He'll be back.」と言っていて、だから余計ジェイソンを許せないのかなあとも思う。
本を読んでいるこちらとしては、キレちゃったジェイソンも、黙々とナイトウィングやってるディックも、
根っこはどちらも悲しくて仕方がなかったように思えるんですけどね。
まあ、ちゃぶ台をひっくり返す勢いで今回以上にキレるティムが後で待ってるわけですが。
それはまた別のお話ということで。

しかし。
ジェイソンという一度死んだロビンと、その後でロビンになったティムが、
師(というか父親)であるバットマンの格好でこんな風に血を流して争うことになるとは、ちょっと思ってませんでした。
殴り合いが前になかったわけじゃないですけど、今回のはお互い暗い、というかお互いおかしい。
誰のせい、て言ったら、こんな時に死んでるブルース・ウェインが一番悪いんですが。

ブラックマスクについては、よく分かりません。
とりあえず『WAR GAMES』の、いつでもどこでも拷問大好き☆ の人じゃないらしいです。

あ、ジェイの着てたスーツは、『BLACK GLOVE』にいた三人目のバットマンのを、『R.I.P』のヘリ撃墜後に無断拝借したようです。
という話がちらっとあったんですが、この本には入ってなかったんですよね。
その三人目の人、今アズラエルやってるらしいです。
ジェイはいつも他人のアイデンティティを借りてるイメージです。
そして成りそこなう。 人生迷い道ですね。

全体的に、草葉の陰で君達の父親が泣いてるぞ、的なお話でした。
ホントに、あの三人の中でこういう類の血が流れるなんてあんまり予想してませんでした。
主にジェイソンのせいですけどね!
長々書いたのもジェイソンのせいです。


「GOTHAM GAZETTE」は、帰ってきたヴィッキー・ヴェイル、レスリー女史、ステファニー、ブロック刑事の短いお話です。
ここでヴィッキー・ヴェイルが、ブルース・ウェインがバットマンだったことに気づくんですが、
どーなるんですかねえ。
壁に貼ってあるティムの写真の下に赤駒鳥がいるあたり、既に色々バレてる!



(追記)
この『BATTLE FOR THE COWL』の後については。
エピローグが『BATMAN : LONG SHADOWS』に。 こちらはディック中心。
その後のティムがどうなったかは『RED ROBIN : THE GRAIL』
ディックとダミアンの新ダイナミックデュオが『BATMAN & ROBIN : BATMAN REBORN』(現在これが全体の中の主軸)
蝙蝠に限らずゴッサム住人を描く『BATMAN : STREETS OF GOTHAM HUSH MONEY』
猫さんハーレイアイビーの『GOTHAM CITY SIRENS : UNION』
などが出版されております。


(2010年5月)

もどる